「政治もマスコミも“福島”を収束させようとしている」――南相馬市長が語る復興の現実(2/3 ページ)

» 2012年11月02日 11時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

「“福島”を収束させようと思っているかのように感じる」

桜井 日本の国のレベルの政治の話をすれば、今の民主党政権も、可能性として言われている自民党(政権)の話についても、この現実に本当に寄り添った形で政治展開されているかどうか、私は疑問に思います。彼ら(被災者)に希望を与えるのが政治の務めであるという認識から、「今の政治を変えないといけない」と強く思っています。

 今の政治も日本のマスコミも、事故が収束したかのような報道の中で、“福島”を収束させようと思っているかのように感じています。

 この悲劇から日本は立ち直らなければなりません。政治はこの悲劇を幸福な方向に転換する責務があると思っています。今、この悲劇的な現実を正確に報道するのではなくて、回帰的な原発再稼働の方向に大きくかじを切っているように思います。

 野田首相が就任直後に言ったように、今必要なのは福島の再生であり、日本の再生です。今、福島を再生することが責務ですし、我々はその現実の中にいて、正確に伝わっていない現実があると思っています。

 福島のこの悲劇を日本の再生に変える絶好のチャンスでした。2011年3月には、永田町も霞が関もパニックに陥っていました。それから霞が関は再生したかのように感じていますが、被災地福島は再生されていません。このギャップを埋めるのが政治の役割だと思っています。

 日本の政治とマスコミを含めたシステムを変えていかなければならないと感じています。ところが現実は過去に戻りつつある、過去のシステムに戻りつつあると感じています。あの悲劇を乗り越えて世界を変える、政治的な絶好のチャンスを逃したと思っています。

 野田首相はオールジャパンという言葉をよく使います。私は自民党であれ、共産党であれ、公明党であれ、民主党であれ、力を合わせてこの危機を乗り越えるべきだと党首の方々にしきりに訴えてきました。

 ところが現実はどうでしょうか。政権を批判し、非難し、自分たちが政権をとることにのみ必死になっているように感じています。日本のマスコミが報道しなかったにも関わらず、当時、世界中のマスコミが私のところに来て、現実を報道していただきました。

 日本の政治を変えるということは、マスコミも含めたシステムを変えることだと思っています。当時から今までの日本のメディアを考えると、私たち被災地に寄り添った姿というのはいまだかつてみえておりません。

 私はその原因が2つあると申し上げてきました。1つは日本のメディアが使命感を持っていないこと。もう1つは多くの電気事業者からコマーシャル料をもらってきていること。今の被災地の現実を世界のメディアの方々にしっかりと伝えて、世界から日本を変えていただかないと、今の日本の中から変える力は小さいのではないかと感じています。

 南相馬市の住民も含めて多くの国民は、原発との共生を望んでいません。子どもたちや孫たちの世代に負の遺産を残していくことを望んでいません。日本の政治は被災地の姿をしっかりととらえて、過去に遺恨を残さない政治を作り上げていかなければならないと感じています。

 南相馬市長として、全国の首長に「脱原発をめざす首長会議」を呼びかけました。自民党支持者から選ばれた首長であれ、民主党支持者から選ばれた首長であれ、住民から選ばれた首長は住民の命を守る責務があります。首長の多くは我々の考え方に賛同してくれています。住民から直接選ばれた首長として、住民を守る、住民の生活を支える責務があるからです。

脱原発をめざす首長会議公式Webサイト

 ご存じの通り、日本は議院内閣制です。議席を数多く取った政権が政権与党が首相を選ぶシステムです。本来であれば、この悲劇を乗り越えていくために、強いリーダーシップを持った首相が選ばれなければならないと感じています。

 南相馬市は原発と共存しないことを決めて、産業も原発と共存しない脱原発、そして再生可能エネルギーを中心とする産業再生を目指しています。地震と津波と原発事故で、農民の多くは農業を営む意欲を失いつつあります。農民に希望を与えていくこと、仕事を営むこと、これを我々が与えていかなければなりません。農業を営む意欲がなくなった人たちが、農地を手放したがっています。我々は農地のままでなくとも、太陽光エネルギー発電所であれ、再生エネルギーの基地であれ、さまざまな用途にできると感じています。

 一方、日本の霞が関はもとのままであることを望んでいます。現実に即した政治が必要だと感じています。南相馬市は、再生可能エネルギー基地に変えていくためのさまざまな政策を展開していきます。

 もちろん除染も含めて、生活環境の改善には努力していきます。市民に生活を営む意欲を動機づけていく、営もうとする気力を与えていくのが政治の務めだと思っています。原発事故を乗り越えて、市民に生活する意欲を持たせることが我々の使命です。福島に住む人たちが意欲を持ってもとの生活以上の生活を営もうとする意欲を与えていく、心を再生することが何よりも重要だと思っています。人に必要なのは自分が何のために命を与えられているかを実感できて、家族を構成し、幸せを目指すことだと思っています。

 南相馬市は再生エネルギー産業への転換と、原発の廃炉を目指した産業、ロボット産業などの育成を含めて、新しい産業に挑戦していこうとしています。彼らの過去の生活を奪ったこの現実から、自分たちの生活を取り戻させようとする気力をもう一度立て直すことが我々の使命です。

 日本人は過去から今まで、さまざまな知恵を集めてきた国民だと思っています。この危機を乗り越えられる国民だと思っています。そのためにこの悲劇的な現実をしっかりととらえて、この現実を変革して、彼らに希望を持たせる政治を展開することが何よりも世界に発信する上で必要なことだと思っています。

 自民党の安倍晋三総裁が総裁選当選直後、私のところにおいでになりました。彼は被災地に寄り添っていくということを発言しました(参照リンク)。その舌も乾かないうちに米倉弘昌経団連会長との話し合いの中で、原発については再稼働ありきの発言をしています(参照リンク)。

 民主党政権が物足りないのであれば、自民党が政権を獲得した折にはもっとすばらしい政治を展開し、新しい産業に切り替えるのが、国民に対する希望あるメッセージだと思っています。石原慎太郎前東京都知事は福島第一原発事故直後に「この技術を失ってはならない」という発言をしました。日本の指導者と言われる政治家たちがなぜこの現実をしっかり見ようとしないのか。私には現場を預かる首長として、この現実をしっかり伝える責務があり、再生させる責務があります。

 福島の現実を見て、ドイツは変わりました。世界中の多くが脱原発に向けた産業シフトをしていこうとしています。被災地で今、悲劇的な生活を送られている市民の多くの気持ち、そして一般の国民が毎週金曜日に官邸をとり囲んだ運動を考えると、日本の国民は理知的だと考えています。この国民の多くの気持ちを政治がしっかり反映していかなければならないと感じています。

 日本の再生は福島の再生なくしてはありません。多くのみなさまにこの現実をしっかり伝えて、世界中のみなさんとともに、日本をそして地球をしっかり後世に伝えていくのが我々の責務だと思っています。被災地の首長としてみなさまに世界に現実を伝えていただいて、地球人として日本人として、この地球を後世にしっかり残していく責務を持っていることを申し上げます。

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