90年代から空洞化は言われているけど……なぜ若手が育っているのか?アニメビジネスの今・アニメ空洞化論(2/5 ページ)

» 2012年11月06日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

若手もある程度育っている

 次図はアニメーター同様に、現役監督の年代分布を調べたものである。監督はアニメーターよりかなり人数が少ないと思われるが、作品を代表する立場ということもあってか生年は得られやすく、342人のデータが集まった。

 監督の場合、制作工程の把握など、アニメーターより習熟しなければならないことが多いこともあってか、世に出る年齢がやや遅いように見受けられる。最も年配は1935年生まれで新作に取り組んでいる高畑勲氏で、最も若いのは1985年生まれでプリキュア劇場版の監督を務めた松本理恵氏で、こちらも定年のない職制であるので50歳ほどの開きがある。

 アニメーターと同じく、監督でも1960年生まれ前後から多く人材が輩出されている。先ほど述べたようなテレビアニメの影響もあるが、作品が年々増えたため、制作人員の需要が大きくなったということもあるだろう。テレビアニメを見て憧れた子どもが成長し、「業界で働きたい」と考えた時、彼らを受け入れられる規模となっていたことが、結果として多くの人材の輩出につながったものと思われる。

アニメ監督年代分布(アニメ@wikiを始めとした情報を中心に筆者まとめ)

 さて、「若手人材は育っているのではないか?」という問題だが、これらの表を見る限り、20代は知名度の問題で少なくなっているが、海外への発注が本格化した1990年代以降に育った30〜40代が一定数いることを見ると、比較的順調に人材は輩出されているように思える。

 現代日本では監督もアニメーターもベテラン層(45〜55歳)が中心ではあるが、「宮崎駿氏は71歳だけど……アニメ監督の高齢化は進んでいるか?」で1970年代中盤以降に生まれたアラサー世代の監督について触れたように、その下の世代も比較的育っていると言えるのではないだろうか(同記事は6月に書いたものだが、7月、10月クールでさらに数人のアラサー監督がデビューした)。

アニメーターを育成している日本のスタジオ

 「原画となるのに欠かせない動画工程が海外に発注されると、国内で原画を育てる機会がなくなるので空洞化する」という話は、実は海外への発注が本格化した1990年代からある話(参照リンク)。もちろん理屈としては正しいのだが、実情としては前図からも分かるように、それなりに若手は育っているのだ。その理由は簡単で、アニメスタジオが人材育成しているからである。

 当然のことだが、「国内で原画を育てる機会がなくなるので空洞化する」ということが一番分かっているのは、実際にアニメを制作している人たちである。原画を描く人間がいなくなればビジネスが成立しなくなることは十分承知しているのだ。

 実は、動画だけのことを考えると、新人に動画を描かせるより、海外へ一括してアウトソーシングした方がコスト的にも楽である。しかし、それでは肝心の原画が育つ余地がない。業界に取っての自殺行為になるので、日本ではアニメスタジオを中心として人を育てているのである。これは次に紹介する2010年3月に行った調査で明らかになっている。

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