成熟期商品の生き残り方――ポスト・イットの場合それゆけ! カナモリさん(1/3 ページ)

» 2012年11月07日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

 グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年10月30日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 一度軌道に乗った製品は、導入期、成長期、成熟期、衰退期の「製品ライフサイクル(Product Life Cycle)」を経る。そのサイクルの中で、衰退期に転落しないように成熟期で踏みとどまるという課題を抱えた商品は市場にも多く存在する。

 オフィスでお馴染みの糊付き付箋製品「ポスト・イット」も例外ではなかった。発売来31年のロングセラーは、生き残りのため、いかなる挑戦をしているのだろうか。

アンゾフのマトリックスのお手本的な展開――まずは市場浸透と新製品開発から

 経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の事業拡大の方向性を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」だ(次図参照)。既存の顧客/市場を対象にするのか、新規の顧客/市場を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客/市場・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。

 米国ミネソタ州に本拠を置く3M(スリーエム)社は、優れた技術力を基盤に、電気電子・建築・ヘルスケアなど多彩なチャネルに向かい、次々と新製品を送り出すことで知られている。「経営戦略としても、全売上の40%以上を直近3年間で出した新製品が占めなければならないという目標を設けている」(『利益思考』グロービス・著、東洋経済新報社・刊)という。アンゾフのマトリックスで示せば、既存顧客に新製品を販売するという「新製品開発」戦略を全社的に推進していると言っていい。

 一方で、既存の顧客に既存の製品を販売する「市場浸透」戦略も怠っていない。例えば今回掲題のポスト・イット製品で言えば、大容量バリューパックを作ったり、多様な色の組み合わせのパッケージを展開していたりする。また、素材を紙よりも目立ち、より丈夫なフィルム素材に変えた「ポスト・イット ジョーブ」を展開したり、テープ状のロールタイプにした「ポスト・イット 強粘着ロール」を発売していたりもする。

 特に2004年3月から販売している「強粘着シリーズ」に注目したい。これは、紙に貼るのではなく、PCの筐体やホワイトボードに貼るというような昨今のオフィスでの使われ方に対応して、はがしやすさは保ったまま、粘着力を通常品の2倍に強化した製品である。外部環境の変化に対応しているのだ。そうした展開の結果、ポスト・イット製品は国内だけで400種ものSKU(最小在庫管理単位、Stock Keeping Unit)にのぼる多様性をみせているという。

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