コラム
» 2012年11月16日 11時00分 UPDATE

「誠 ビジネスショートショート大賞」清田いちる&渡辺聡賞受賞作:不完全エスパー―積極的傾聴と文化祭― (3/5)

[鈴木ユキト,Business Media 誠]

 その夜、夕ご飯の後のテーブルで、私は榊に相談した。

 ひと言で言えば、榊の能力を使って何とかできないか、と。

 例えば、榊の能力でいじめている子を脅す。私も含めたクラス全員にでもいい。怪奇現象と思えるようなことを見せる。あるいは、彼女の思いをみんなの脳に直接注入する。心の痛みが分かれば収まるのではないか。あるいは、あるいは。

 私は一生懸命話した。榊は私の目を見て、うん、うんと、普通にうなずいて聞いていた。榊が私に集中していると思うと、私はそれだけでも頭の奥がとろんとする。同時に攻撃したくなる。でも、耐えた、大事な話だから。

 「どう思いますか? 私、何とかしたい。私自分が許せない。彼女のこと、何とかしてあげたい。このままじゃ、彼女、死んじゃうと思う」

 「そうだな、ゆきかぜ。結果から言えば、お前の言うことは、何回かトライすれば恐らくどれもできる。でも、どれも大した効果は生まない気がする。少し時間が経てば、また別のことが起こる。……あるいは、そのいじめられっ子の彼女が、今度はいじめっ子になるかもしれんぞ?」

 「え?」

 榊は、驚く私に今度は深く、ゆっくりと、うん、とうなずいた。

 そして言った。

 「ゆきかぜ、もっと別の方法があるんじゃないかとおれは思う。いじめ、の解決方法は本当は分かっている」

 「何、どうしたらいいの? それを」

 「気付く、ことさ。それには、学び、だな」

 私は、何だか拍子抜けした。そしてちょっといらっとした。

 そんなお手本みたいな、先生や評論家みたいなきれいな返事は求めていない。緊急事態なんだ。彼女は今日死ぬかもしれないんだ。分かってない。私はいらいらを我慢できなくて、立ち上がって、榊に大きな声を出した。

 「違います! 分かってない!」

 「いや、分かってるよ。おまえの記憶も全部見た。その彼女の顔も分かってる。面長で、右の口元にほくろのある子だろ? あだ名はキョンちゃん。ちょっと変わった子みたいだな」

 「あ……」

 榊は、私の中を読んでいた。私は、自分の中を榊が探ったことに、榊の注意がすべて私に向いていたことにぞくっとした。でも、それを見せるわけにはいかない。だから、こうした。

 「もう! 私の中、勝手に見ないでください! 先に言ってください! エスパーだからって、エチケットです!」

 「あ、すまん、話の内容からしてそうしたほうが早いかなと思って。怒ってるか?」

 「はい、少し。……でもいいです。もっと大事なことがあるから」

 私はそう言って、ちょっと榊をにらむようにして自分の心を整えて、座った。

 今の気持ちも読まれているのかもしれない。だから、読みにくくさせるつもりで言葉を続けた。話している人間の心は読みにくいと、榊は以前言っていた。

 「じゃぁ、キョンちゃんのことや、他のことも全部もう分かってるんですよね」

 「あぁ。少なくともゆきかぜと同じ視界や記憶は共有したと思う。お前と同じ気持ちになっているかどうかは分からんが」

 「それはいいです。じゃぁ、どうすればいいんですか。言ってください。学びとか気付きとか、それっぽいこと言って具体的な方法何にもないんだったらそれこそ、あたし怒ります」

 こういう時のあたしは、とても攻撃的だと思う。多分、榊に甘えている。榊がそれをどうとらえているか分からないが。

 そして榊は言った。

 「やっぱり、学んで、気付いてもらうしかないな。学べば、きっかけさえあれば気付くんだが」

 「怒りますよ」

 「あ、いや、……おれにさっきみたいなこと頼むくらいだから、ゆきかぜ、どんな手段をとってもいいんだな?」

 「はいそうです。手段は選ばないしなんでもいい。とにかく彼女を救って、私も救われたい」

 「……ゆきかぜ、そういえばこないだ話していた、空手部の出展、もう決めたのか?」

 「まだです。でもそれ今関係ないです」

 「そうかな。キョンちゃん、空手部の子なんだろ?」

 「はい、そうです」

 「空手部のみんなは、キョンちゃんの様子をどう思ってる?」

 「分かりません。話したことないです。それもいや」

 「じゃぁ、文化祭の出し物のことは?」

 「いくつか案が出ました」

 「でも決めなかったのか。なぜ?」

 「……みんな、いつでもできることを言うのでいつでもいいかなと思って」

 「キョンちゃんはどんな意見を出した?」

 「彼女は、言ってません。言いたそうだったけど言わないから」

 「ゆきかぜは?」

 「え?」

 「ゆきかぜは、どうしたいんだ?」

 「あたしがどうしたいっていうよりも……みんながどうしたいか分からないんです」

 「そうなのか?みんな、どうしたいのか言わないのか?」

 「言います。意見が出たって言ったじゃないですか。でも」

 「でも、なんだ?」

 「みんな、本気で話さないんです」

 「みんなに本気になってほしいのか?」

 「そんなの! 当たり前じゃないですか!」

 私は、思わず怒鳴るように言った。

 ……そして、あっ、と思った。思考が一瞬止まった。

 私は、みんなの本気が欲しいんだ。キョンちゃんのことも、何もかも。

 私も、そうなりたいんだ。

 キョンちゃんのこと、文化祭の出し物のことも、毎日の学校の雰囲気も、みんなそつなく上手に、見えないルールで過ごしていく。みんなで意味のないパス回しを無限にやっている。

 それが嫌。

 榊は私をじっと見ていた。にらんでいるのではない。過度に優しくもない。

 私は榊の視線から目を離せなかった。でも、視界がにじんだ。

 ぼろぼろと、涙がこぼれてきた。

 そうだ、私は、みんなともっと生き生きと頑張りたい。榊のこともあるけど、あんな嘘の国にはいたくない。小等部や中等部の時には思わなかった。榊のことだけ思ってた。でも、高等部で、キョンちゃんのことがあって、すごく思うようになった。

 私はキョンちゃんの、あの1年くらい前のぱぁっと明るい、思ったことをぽーんと言える、あの気持ちが大好きだった。私にはない、あのほがらかな明るさが。高等部からの入学は、あっていいんだ。外の世界からあんな子が来てくれる。でも、みんなでそれを封じた。

 また思った。あの学校は、勝田おじいちゃんが死んだ後のマヤのようだ。

 涙が止まらない。まだ制服だった私は、プリーツスカートのポケットからハンカチを出した。少し顔を下に向けて、ハンカチを当てて、気持ちを落ち着かせた。榊はそれをじっと見ていたと思う。多分、何分もかかったけど、黙って待っていてくれた。

 私は、涙がおさまって気持ちを落ち着かせて、一回洗面台に行って自分の顔を見て、頑張ろう、と思ってからテーブルに戻った。榊は、天井を見上げていたが私が戻るとまた私を見てくれた。

 私は言った。

 「私、嫌だったんです」

 榊は、少しうなずいたけど特に感想も言わずに、さらに聞いた。

 「みんなのことは、ゆきかぜからはどう見えているんだ?」

 私は、友達のことについて言葉を選んで言うのをやめようと思った。思ったまま、頑張って話すことにした。それは私にとって、とても努力のいることだ。キョンちゃんのすごさが今さらだけど分かった。

 思ったまま、話した。

 「クラスの子も、空手部の子も、みんな賢いし優しいけど、冷たい。別のこと考えているくせに、うまく言う。もめることもないし、けんかもない。でも、意地悪です」

 「それは、キョンちゃんについてのことか?」

 「それだけじゃない。みんな無言で、何か頭で通信してるみたいに上手に『話の落としどころ』に向かっていくんです。それこそエスパーみたいに、雰囲気とか、空気とか、そういうのを読んで。キョンちゃんのことも、見えないことになってる。いじめなんてないって。でも、私知ってる。一部の子は、彼女を時々にらむ。でもすぐに笑顔にする。嫌みな空気で彼女を責める。彼女だけプリントがなかったり、集まりに呼ばれなかったり、彼女が話そうとしても無視する。先生もそんなの気付いてるけど、知らんふりしてる。……私も、知らんふりしてる」

 また涙がこぼれた。

 私は、あの学校で、生きていない。

 それでいいと思ってたけど、やっぱりやだ。

 あの学校のみんなは生きていない。骸のようだ。チャレンジしないから失敗もない。お互い分かっていることの中で、予定した調和の中にいる。キョンちゃんが嫌われたのは、それを壊す人だからだ。言葉遣いが変わっているからでも、性格の問題でも何でもない。

 みんな、キョンちゃんを排除しようとしているんだ。

 そう、「犬くさい」のことだって、もちろんキョンちゃんに少しデリカシーに欠けたところがあったことや、彼女独特の感性が強烈なのもきっと事実だけど、結局それをうまく使っただけだ。空手部でも、優しいそぶりで彼女の気持ちや存在を全部消した。いじめなんて、実在するのが怖いから。彼女がどうなっているのか見えない方がいいから。

 相談されないから、話題に出さない。キョンちゃんはいじめられてないから、こちらからそんなこと言わない。そんな失礼なこと言わない。

 優しくて賢いみんな。クラスも空手部も、みんなそうだ。気遣い上手で大人っぽいよっち先輩も、楽しいマエちゃんも、理知的なミカコも可愛いかおりんも、そして私も、心の中の静かな悪魔に従っている。

 空気を読まないキョンちゃんは、いない方がいいから。

 それに、私は榊以外のことはどうでもいいはずだった。榊に救われた命だ。なのに、こんなに一生懸命学校のことを考えているなんて、いけないことだ。私は学校のことで、キョンちゃんや、学校のみんなのことで気持ちがいっぱいになっている。

 「もう、私、どうしたらいいか分かんない。自分が、やだ」

 そういうのが精一杯だった。

 榊は、私をじっと見ていた。すべてを受け入れるように、すべて聴いて、見ていた。

 その様子はとても私を安心させた。私は榊の前で、ひっくひっくと泣き続けた。

 そうして、ゆっくりした時間のあと、榊が小さく、うん、とうなずいて、私から少し視線を外した。そして独り言のように、ぼそっと言った。

 「……生き生きとした、人間としてのマヤ、だな」

 榊は、少し遠い目をした。

 その言葉は、知っている。勝田おじいちゃんが、まだ私が小さかったころに言っていた。おじいちゃんは言っていた。戦争が終わって、雨漏りのする小さな工場から始めたマヤ。みんな生き生きとしていた。それを取り返したいんだ、とも。そして、死んでしまった。

 榊の中で、思い出と、現在のことが走っている。

 何かを暗唱するように、榊は言葉を続けた。

 「安定は、停滞を生む。挑戦と成長は不安定から生まれる。1つのパラダイムでの立場にしがみつくなら、他のパラダイムへの移行は悪として封殺するのが常套手段だ。選抜した優秀な人間の集まりになればなるほど、あらゆる手段で安定が作り上げられて、停滞し、衰退する。……由緒正しい大企業病ができあがる」

 私はいやしい女だ。まだ半泣きの癖に、猛烈な嫉妬心で気持ちが燃え上がりそうになった。

 榊が私の気持ちを引き出して話させてくれて、自分のことが嫌になって、キョンちゃんにひどいことしてる仲間で、学校で生き生きしていない、そんなことを思っているそんな自分なのに、同時に、マヤのことや、マヤ時代の記憶にとらわれている目の前の榊を、私は、私に奪い返したい。

 それに、マヤの話は私はもうあまり好きではない。

 エスパー研の思い出は楽しいものが多いけど、夜、榊から時々流れ込んでくる夢の中で、マヤのころのことは、少し苦い。おそらく子どものころの、寺院のような場所でのことほどではないけれども。

 私は、榊に抱きついていないと眠れない。榊には、「子どものころから榊さんが、私をだっこして眠っていたからです。いい迷惑です。責任取って抱き枕になってください」と言ってある。暗い寺院のようなところでの幼いころの暮らしが夢に出ると、榊の心は叫ぶ。暗い森。見つからないように逃げ出した夜道。さまよった都会でのみじめな思い。夢遊状態で絶叫する榊。そんな時、私は榊を胸に抱きしめる。怖くない、怖くないですよ、と繰り返す。そうすると榊はまた深く眠りにつき、私は朝までじっと榊を抱いて見張る。

 本当は、マヤの記憶も、何もかも榊から消したい。

 私の中には、どうしようもなく榊を独占したい私がいる。自分でも、怖い。いつか私はそんな自分に支配されてしまいそうな気がする。この時も、さっきまでのキョンちゃんや文化祭、学校のことを話してるのも分かりながら、『マヤの話なんかしないで!』とか怒鳴りそうになったから、そんな自分を抑えた。

 でも、その分少し落ち着くことができた。

 ゆっくり、榊に聞いた。いつもの私を取り戻すように。

 「独り言は、いいです。マヤの思い出より、今のこと考えてください。何か、ヒントになりそうなことありますか? ……だったらマヤのことでも許します」

 榊は、はっと、我に返ったようになった。そして言った。

 「あぁ、ゆきかぜの、頑張り方の参考になることなら話せるが。聞くか?」

 「はい」

 私は、榊とひとつになる。榊の知識と経験を、私の中に入れる。

 「あくまで会社での例だが、おれは人の集まり一般においても有用なことだと思う」

 榊は、そう前置いた。私はうなずいた。

 榊は話し始めた。

 「マヤでマネジメント層に入る時に、研修で最初に習うことがある。チームメンバーの力を発揮させるやり方には、『指示型』と『非指示型』の2種類がある。往々にして、単純労働や必要以上にやってくれるなという仕事(ワーク)の場合、指示型が適している。だが、不定形で未定の事柄に、仲間に生き生きと挑戦してほしいなら『非指示型』のマネジメントをどうやるかが肝心になる。現代においては、こちらのほうが重要だ」

 榊は、じっと私を見つめながら話している。私も榊を見つめた。

 私は深くうなずいた。榊は続けた。

 「前提として、人はみな、違う。いいところも苦手なこともある。でこぼこしていて、人だ。そして人には必ず思っていることも、望むこともある。単純労働ならばみんなが共通して持つ低レベル能力のみ使えればいい。だが、十分「自分」を発揮してほしい目標があるなら、チームメンバーのことをよく理解する必要がある。本当は、長い付き合いでお互い分かっているという関係が欲しいところだがそうもいかんし、長い付き合いでも分からないことも多い。だから、少し、メソッドを使う。代表的で、必ず有効なのは『積極的傾聴』という方法だ。ゆきかぜ、聞いたことあるか?」

 積極的傾聴。初めて聞く言葉だった。ちょっと悔しかったからこう返事した。

 「ないです。積極的、と、傾聴、という言葉の意味は知ってます」

 「じゃぁ、『目は口ほどにものを言い』というのは?」

 「知ってます。馬鹿にしないでください。私、国語も悪くないです」

 「そうだな。これは言い換えると、口は眼くらいにしかものを言えない、ということだ。だが、意思の交換は結局言葉にするしかない。この方法しかとれない」

 「……分かる気がします」

 「その中で、振り返って考えてみよう。ゆきかぜは学校のみんなが上手に言葉で同意していくと言うが、彼女らの様子をどこまで見ている?」

 「え?」

 「彼女らと話す時に、特に1対1の時、言葉同等という『眼』や様子を、その場の情報として意識しているか、ということだ。さらに、相手に話しやすいようにうなずいたりして『今言葉にしていること以上の言葉』を引き出す立場になりきっているかどうか。これは、意識しないとできないことだ。なぜなら、おれもゆきかぜも、学校のみんなも、人、だからな。人は話したいものだ。聞いてほしい。だから、それがぶつかりあうのが普通だよ」

 私は、黙るしかなかった。

 自分のことを思い出していた。実行委員に選ばれた時、私は内心げっそりだけど笑顔で頑張りますと言った。空手部の部室で、みんなが言う案に、思いもしないのに「それもいいね」と繰り返した。そしてキョンちゃんが、助けて、と背中や視線や全身で言っているのを、無視し続けた。分かっているのに。彼女が「大丈夫」と言うから、自分で言わないからと。

 “言う”“話す”とは、いったい、何なのだろう。

 強く思った。人になぜ、言葉なんてあるんだろう。私は、ずるい。

 私は榊に言った。

 「今、私の中、見てください」

 「分かった」

 榊はそういった。少し目を細めた。頭の中に、うっすら圧力がかかった気がした。

 私は思い出していった。榊はゆっくり小さく、何度かうなずいた。

 私たちには、こういう方法がある。私は、それを実感したくなった。

 自分の汚れた脳みそや記憶を、みんな見せたかった。涙も出なかった。

 榊は、言った。

 「……ゆきかぜが、実行委員に選ばれた時に頑張ると言ったのは、おれは、責任感からだと思う。空手部の部室でみんなが言う案を良いと言ったのは、もっと気持ちを出してほしかったからだと思う。キョンちゃんが言わないから、と思ったことには、まだ、間に合う。ゆきかぜ、人の気持ちや考えがのぞけても、何にもならない。人を変えるのは、人だ。自分であり、相手だ。積極的傾聴の方法、いくつか教える。自分で考えて、良ければ使ってくれ」

 「……はい。榊さん」

 榊は、優しくにこっと笑った。

 そうして、榊は私に積極的傾聴、というのを方法として教えてくれた。

 何も珍しい特殊なことではなかった。でも、目的を持ってすっきりと整理されている内容は、まさにメソッドだった。どちらかというと、行為よりも考え方や気持ちを学んだ気がした。30分くらいで済んだと思う。


 その後、私たちは当然別々にお風呂に入った。先に榊が入って、後で私が入った。私が寝る用意ができた時、榊は先にベッドに入ってもう眠っているようだった。仰向けになっている榊を、私はいつも通り“抱き枕”にした。私の気持ちの中は彼への感謝でいっぱいだった。明日から、やってみよう。まだ間に合う。そう、まだ間に合うんだ。

 私は、もう眠っているはずの榊にぎゅっと抱きついた。ありがとう。愛してます。

 すると、小さな、ささやくような声がした。榊だ。まだ起きていたらしい。

 「ゆきかぜ」

 「はい」

 私も小さく返事をした。心臓が破れそうにどきどきした。

 榊は、自分の腕を私に腕枕するように位置を直して、そのままやさしく、ぎゅっと抱き寄せた。そして、こう言った。

 「ゆきかぜは、ずるくない。安心しろ。……おやすみ」

 「……榊さん」

 今日、4回目の涙があふれた。私、泣きすぎだ。泣きすぎで頭痛いのに。

 抱き寄せられた榊の肩のところに私は顔を押しつけた。お洗濯したばかりの榊のパジャマに涙がいっぱいしみこんだ。そういえば子どものころからこんな夜もいっぱいあった。

 少ししてから、私も、おやすみなさい、と言った。

 榊からは寝息だけが聞こえた。

 今夜も、榊が安らかに眠れますように。私は祈った。

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