どうして行政はダメになってしまうのか最年少政令市長が経験した地方政治改革(4)(2/3 ページ)

» 2012年11月30日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

観光名所が作れない理由

熊谷 千葉市は海に面していて、日本一の長さを誇る人工海浜を持っています。しかも世界を見渡しても、大きな国で首都から30〜40キロのところにこれだけ長い砂浜を持っているところはあまりありません。

 ですからすごく貴重なのですが、「知る人ぞ知る」みたいになっています。県民はウインドサーフィンをやったり、稲毛は千葉県でも有数の海水浴客が来て泳いでいたりと、便利なので知っている人は知っているのですが、千葉市と言われた時にイメージは全然リンクしていないんですね。そこで、この人工海浜をもっと使って、海のレジャーを作っていこうとしています。

 うまくいかない理由の1つに、砂浜に面しているところが全部公園になっていることがあります。本当は海の見えるレストランを作ったり、砂浜を歩けるようにしたりしたいのですが、公園には基本的に店を出せないんです。

 「何でこんなもったいないことやっているんだろう」ということですが、その多くが県の公園なんですね。ただ、県に言っても、冷淡な感じなんですね。県の公園部隊からすると、貴重な公園面積なんです。彼らは“公園面積を○ヘクタールから○ヘクタールにする”という計画の中で、予算を確保してきているわけです。だから、「公園じゃなくてもいいじゃない」と言っても、彼らの論理的にはやる理由がないんです。

 そういう意味で行政というのは難しくて、例えば今、自転車がはやっています。ですから、我々は千葉市を自転車の街にするため、自転車レーンをもっと増やしたいわけです。千葉市は平たんなので、自転車レーンを整備すればものすごくいい場所なんです。海も里山も畑もある、すごく景色のきれいなところです。

 しかし、警察がなかなかイエスと言わないんです。警察からすると、自転車ラインを増やせば、自転車事故が増えるかもしれないということになります。彼らは事故を減らすのがミッションなので、警察の許認可権限を緩くすることで街が活性化しようと基本的には関係ないわけです。ですから、彼らは止める。

 例えば花火大会などのイベントをやろうとしても、警察が基本的にうんと言わないということがたくさんあるんです。イベントがあって盛り上がろうと、彼ら自身はむしろ疲れるわけなので、あまりイエスという理由はないわけです。

 もちろん熱い気持ちのある人たちもいて、「やろうよ」と言ってくれたりもしますが、組織としてはやればやるほど彼らは土日に動員させられて、しかもリスクと常に隣り合わせで、事故が起きたら彼らのせいにされる。仮にイベントが盛り上がっても、その成果は、商工労働部とか企画した人間が持っていってしまうわけです。協力した警察はちょっと褒められるかもしれないですが、少なくとも評価されるわけではないんです。

 そういうのがあって、それぞれにとって最適化された結果、一般市民からすると「何でここに店が一軒もないんだ」となったり、路上駐車ばかりになったりするんです。地元では有名な美浜大橋というスポットがあって、カップルのクルマがいつも止まっています。そこに、ジェラート屋や喫茶店があれば、絶対売れるんです。でも、作りたくても作れないんです。県に言っているのですが、そういう世界です。

効果ある企業誘致策は

熊谷 それから企業誘致をやろうとしています。企業誘致というと、どの街も工場を中心とした企業誘致策を持っています。固定資産税を減免する補助制度を持っているのですが、ある時期から工場の進出は減ってきています。電力供給もこんな状況ですからね。

 一方、IT系企業は有名な企業でも固定資産を持たないですから、「固定資産税を減免します」と言われても、ピンとこないわけです。そこで、幕張新都心の新しい企業とも話をすると、「法人税に決まっているじゃないですか」という話になるわけですね。今まで、法人税を減免する発想はなかったんです。

 法人税を減免しようという話をしたら最初、職員がすごく嫌がったのですが、調べれば調べるほどこれしかないということで、今年度から千葉市に来てくれたら、法人市民税が実質100%減免になるようにしました。これは日本で唯一です。横浜が唯一50%減免をやっていたのですが、思い切って100%でいこうということになりました。厳密には平成26年度までに来てくれたら100%減免で、それ以降は50%減免です。

 今までは工場を中心に企業誘致してきたのですが、市内雇用率を調べたら6割でした。雇用を作ろうと企業誘致しても、4割が市外だったら、100%の効果は発揮していません。そこで、少しでも市内雇用率を高めるインセンティブを作れないかということで、雇用奨励補助金制度ということで、正規社員として雇った場合、1人につき30万円、最大6000万円までお金を出す制度をスタートさせて、結構引き合いが来ています。

 企業誘致なので、すぐには意思決定できないでしょうが、下半期から来年度にかけて有名な企業も少しずつ千葉市に立地してくると思います。

 千葉市は、成田空港に一番近い政令指定都市なんですね。そういう意味では本来、我々が一番、グローバルビジネスに対応しないといけないのですが、千葉という土地柄はどちらかというと逆なんです。

 そこで、もう少し国際化を意識しようとしたのですが、国際化といっても徒手空拳で始めてはいけません。千葉市は幸いなことに、米国で2番目に元気なヒューストン市と中国で一番元気な街の1つである天津市と姉妹友好都市提携しています。ここと何か交流しようということで、現地に行って市長さんと経済交流提携をしてきました。

 具体的には、それぞれの街の企業が海外の姉妹友好都市に進出する時、例えばヒューストン市であれば、法人登録を半年間しなくてもビジネスを認めてもらうという条件を作ってもらいました。海外に行くのは当然ハードルが高いので、まず法人登録をせずに営業活動をしてみて、最終的に登記するか決めてもらうということです。そして、千葉市にもヒューストン市にもインキュベーション(起業支援)施設があるので、お互いの企業がインキュベーション施設に優遇条件で入れるようにしてもらう。さらに営業で信用力を担保してもらうということもしています。

 実際に昨年度は市内の企業で、天津市でビジネスをやっているところがありました。炭鉱の安全システムを作っているベンチャーで、無線のいろんな機器を炭鉱内に張りめぐらせて、炭鉱で地震がある時は熱が少し変化するので、その変化の数値を集計して、炭鉱に危険が迫っているかどうかを予測して、炭鉱で働いている人たちにアラームを出すというシステムを扱っています。今年度はヒューストン市に市内の企業が現地法人を設立しました。

 起業支援では、我々はインキュベーション施設をたくさん持っていますが、今年度にもう1つ増やします。それからベンチャー・カップCHIBAのように、機関投資家と優れたビジネスプランが出会えるような場を作っています。

 また、子育て世代に予算を集中するため、2010年度にこども未来局を作りました。今まで子ども系は各局に分散していたので、それを一元的にやるところを作って、幼稚園でも保育園でも、子どもにとって良いものをどの予算を使ったら一番いいかを判断しています。2012年4月1日時点での待機児童は大幅に減少させることができました。保育所だけではなく、子育てしている人たちにとって必要なものにかなり予算を配分して、充実させています。

 子ども参画事業というのが千葉市の1つの特徴で、96万人の市民の中には当然子どもたちもいるわけですが、投票権がないので、街に対して何も働きかけできません。しかし、子どもにとって魅力的な街を作ることが将来豊かな街になるための1つの道ですから、子どもたちに街作りについて考えてもらって、「こういう街にしてほしい」と提言してもらう場を作っています。そうすることが子どもたちの自主的な成長をうながすし、我々も子ども目線をとりいれられます。

 細かい話だと、千葉市は図書館を持っているのですが、図書館の分類はパッと見で分かりません。棚の近くに行かないと見えない。ある子どもに「スーパーと同じように上から分類をぶらさげればいいんじゃないですか」と言われて、まったくその通りだなと。こういうのは分かりやすい例ですが、実は子どもたちから提言がたくさん来ていて、政策にたくさん反映しています。

 我々が今、力を入れているのは電子行政です。日本はこれが一番遅れていますが、千葉市はレガシーシステム※改革が政令市の中でも一番遅れています。その改革が、今年度から60億円かけて始まります。日本は国民共通番号がない稀有な先進国ですが、マイナンバー法案はいずれ国会で認められるはずです。我々はこのマイナンバーを見すえて、行政では考えられなかったことを絶対にやろう、手続きで行政の窓口に来ることをほとんどなくすくらいの自治体を作ろうということで、3〜5年かかりますが、千葉市が全国の中で最先端のICT行政都市だと宣言できるような態勢で今、人も金も投資しています。

※レガシーシステム……メインフレーム(汎用機とも呼ばれる大型コンピュータ)を使った旧式の大規模システム。OSがメーカーの独自製品であるため、多くのメーカーが共用しているWindowsやLinuxなどを使用したオープン・システムに比べてコストが高い。また、中身を詳しく知っている開発元のメーカーしか扱えないため、競争原理が働きにくい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.