どうして行政はダメになってしまうのか最年少政令市長が経験した地方政治改革(4)(3/3 ページ)

» 2012年11月30日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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なぜ行政はダメになってしまうのか

熊谷 最後にまとめますが、行政がダメな理由はいくつかあるのですが、まず1つは事実上、経営者がいないことです。市役所に入って「千葉市がこんなに財政がダメになったのは経営責任だから、あなたたち局長陣、トップは大幅給与削減ですよ。私も切るけど」という話をしたら、ものすごい不満が出たんです。「俺らは経営者じゃないです」と言われたわけです。「えっ、事業部長とかそういうトップクラスが経営層じゃないというのはよく分かりません」という話があったのですが、これは後で考えると「なるほど」と思うんですね。

 彼らは公務員であって、しもべなんですよ。選挙で選ばれた人間の言うことを聞くということが公務員が徹底して叩きこまれている論理なので、彼ら自身が自主的に判断と責任を持つなんてことはあってはならないことなんです。トップが言えば絶対なんです。

 私が議員の時に「財政がこんなにヤバいんだから、財政危機宣言を出して変えないとダメじゃないか」と言っても、財政局は「千葉市はそんなに危なくないです」と言っていたわけです。しかし、私が市長になって「財政危機宣言やっぱり出さないといけないんじゃないの」と言ったら、「出しましょう」という話になって、「あなた、危なくないと言っていたじゃないか」と言ったら、「いやこれは上が大丈夫だと言っていたので、我々が大丈夫じゃないなんて言えるわけないじゃないですか」と。基本的に選挙で選ばれた市長の言うことを何が何でも聞くというのが公務員なんです。

 それが良いか悪いか議論がありますが、そうでないと逆に回らないんですね。だからはっきり言って、彼らに経営意識はないんです。じゃあ誰に責任があるのかというと、市長はある種のCOO(最高執行責任者)なのですが、本当は議会が取締役なんですよ。議会が承認しない限り、予算は通らないので。4年に1回の選挙で選ばれた議員たちが、市政の最終責任者でなければならないんです。

 ただ、千葉市に議員は54人もいるので、彼らは自分たちが取締役であるという自覚がないんです。もちろんそういう意識がある人たちも一部います。ただ、大勢としては歳出出動ですね。地元にどういうものを持って帰ってきたかになってしまうんです。彼らの論理としては「もっとやれ」が基本なので、「大丈夫か、そんなことやって」なんて言う人は最近増えてきましたが、やっぱり少ないんですよ。

 なので、市の幹部は「経営者じゃないです」と言って、議員に「あなたたち責任ありますよ」と言っても「そんなことないよ」となるわけです。だから、経営者がいないんですね。制度上はいることになっているのですが、事実上いないんです。唯一、市長だけがまだ経営責任を感じているわけですが、その市長ですら選挙を意識しますから、これからの時代は特に、分の悪いことしかできません。そうすると全体の責任がとれないので、誰も結局やらないということが現象として起きてしまうジレンマがあります。

 ですから、議会が重要なんですよ。議会が重要なのですが、市民や国民は議会が重要だと思っていないんです。市長を選んだらそれでいいと思っているんです。私が何度も「市長を選んでも、取締役会を変えないと市は変えられません」と言っても投票に行かないんですよ。市長選挙には行くけど、議会選挙には行かないみたいなことが本当にあるんです。そうすると議員に既得権益の人たちが選ばれていくんです。

 それからもう1つ、一応役所をかばうと、民間と決定的に違うのはユーザーが選べないんです。民間のみなさんはユーザーが選べないといった瞬間、おかしくなってしまうと思います。ユーザーが選べない環境の中でやっている。議会という常時要求をしてくる機関が存在している。給与が組織の業績と連動しない。これが究極かもしれません。

 公務員の給与は、人事委員会制度によって決まります。人事委員会が年に1回、市内の企業の給与平均を調べて、それをベースの給与に決めるんです。いくら職員が頑張ろうと、市内の民間企業の平均値でベースが決まります。普通はその年度の企業業績があって、だからどのくらいボーナスを出せて、その上でどのくらいそれぞれの組織が貢献したからということがありますが、そういうのがないんですよ。個人だけの業績評価をやっていますから、やっぱり無理があるんですよね。私は人事委員会制度をなくしてほしい、もしくは必置義務をなくしてほしいと言っています。

 それから、市内の団体はやっぱり行政からの補助金をあてにする文化がありますね。行政にコンタクトをとってくる人たちは行政に頼らないといけない人たちが多くて、行政の補助金をあてにしない人とは普段コンタクトしないので、どうしても偏りが出てしまう。

 なので仕事を見直すと、市民に影響が出るものが多くて、市民からのクレームや議会からの説明要求が職員にはものすごい心理的な負担になります。頑張っても別に報われないですから。そのために目的ではなく、とにかくもめないような手段やプロセスを優先するという、本末転倒の結果がよくあります。

 QVCマリンフィールドの人工芝貼り替えをするために6億円かかるので、ファンの人たちにお金を出してもらおうと、マリン基金を作ろうと提案した時のことです。ちょっとでもいいからお金を出してください、みんなで一緒にスタジアムを良くしようということだったのですが、事務方が考えてきたのはホームタウン推進基金という基金です。

 「千葉市にはマリーンズだけでなく、ジェフ千葉もあるので、マリーンズにだけお金を集めると、ジェフとの公平性が……」ということだったのですが、「あなたはジェフもマリーンズも応援する立場かもしれないけど、普通はどっちも応援する人は少ないですから。マリーンズのファンが、ジェフにもお金を使われるかもしれない基金に寄付しますか。しないでしょ」と言うと、「言われてみるとそうですね」みたいな話になりました。優秀な人なのですが、そうなってしまう。プロセスや公平性ではなくて目的なんだということが、なかなか難しい。

 それからどうしても先例、他市の事例がないとやれない。それは説明が付かないからです。それから、市民の福祉の向上が優先されて、新たに外の人をとってくる発想がありません。既存団体が優先されるので、新しい団体、企業、業態になかなか目が向けられにくい体質があります。

 ですから、私は最終的には国民が変わらないとダメだと思います。国民が行政というものの実態を知った上で、アドバイスをしながらともに歩むというものを作らない限り、行政だけだと絶対だめですね。選挙にも行ってくれないんですよ。私はそういうことを感じながら行政運営をしていますが、選挙に落ちるとか考えずに正しいことをやります。もちろん有権者からの支援を集められるようなことは最大限しながらも、そういう取り組みをやっているところです。

 →第1回:「なぜ千葉市で政令市最悪の財政が生み出されたのか」

 →第2回:「敬老会補助に銭湯無料券……千葉市が行ってきたバラマキ事業」

 →第3回:「『市長、俺だよ俺!』 千葉市の税金を滞納する人々」

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