ダルビッシュが目指す「史上最強」の投手像臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(2/3 ページ)

» 2012年12月06日 08時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

ダルビッシュは自身のメジャー1年目に満足していない

 だが、ダルビッシュは自身のメジャー1年目に満足してはいない。メジャーリーガーの一流打者たちと初めて対峙し、そのすご味を体感。実際に今季開幕早々、Twitterで「日米でこれほど違うとは思わなかった」「あまりにも日本とアメリカ(のレベル)が一緒だと思っている人が多い」と告白している。

 さらに今夏の球宴の会見で「(日米の差は)トレーニングの違いが大きい。日本人はトレーニングをやらないので、日本の野球は伸びない。固定観念にとらわれている」と断言。「より上に行くために、いままでの固定観念にとらわれない練習をしている」と述べ、メジャーで成功することだけを視野に入れていると打ち明けた。

 8月以降から来季を見据えたフォームの微調整にも取り組んだ。セットポジションの構えを変えてグラブの位置を下げたのもその一環だ。さらに背筋を伸ばしながら尻を突き出す前傾姿勢型のフォームに変えたことで直球に伸びが出て、制球も安定した。

 これまで多くの日本人投手がアジャスト(適応)に苦労してきたメジャーのマウンドの傾斜や硬さを逆に利用することで、ダルビッシュは現在も「進化」し続けているのだ。ライバル球団のスコアラーからも大絶賛されるのはいうまでもなく、この驚異的な適応力の高さであることにほかならない。

 ヤンキースやドジャースなどで監督を務め、これまで多くの日本人メジャーリーガー投手を見てきたジョー・トーリ氏はダルビッシュのストロングポイントについて次のように力説する。

「日本人投手の多くは急傾斜で硬いメジャーリーグのマウンドにアジャストできず、球離れが早くなって相手打者に球種を見分けられ、痛打を浴びるケースが目に付いた。上体が早く本塁方向に倒れるため、無意識に球を早く離してしまう。マツザカ(レッドソックスからFA)やイガワ(元ヤンキース、現オリックス)の場合は、それを矯正するまでに時間を要して苦労を重ねたが、ダルビッシュはわずか数カ月で克服した。彼は上体を大きく曲げて構え、投球動作に入ると背筋を伸ばしてワンテンポ置いて体重移動を遅らせている。その結果、球持ちがベターになり、より打者に近い位置でリリースできるようになった。彼はいままでメジャーリーグに来た日本人投手の中で『ナンバー1』になれる可能性がある」

 あのトーリ氏が、ここまで絶賛するほどのポテンシャル。ダルビッシュ自身もそれを分かっているからこそ「まだまだ自分はこんなものではない」と、さらなる高みを目指すのであろう。ケタ違いのパワーヒッターであふれかえるメジャーで勝負したいと考えるのは、日本で頂点を極めた投手の自然な欲求だ。

 前出の松坂や、阪神からFAとなってカブス入りが決まった藤川球児らがそうであるように、日本で一流と呼ばれる多くの投手たちはパフォーマンスと比例してメジャー行きの欲求が膨らんでいく。しかしダルビッシュの場合、彼らとは大きく違っていた。メジャー移籍を決断するまで紆余曲折があったのだ。メジャー挑戦がささやかれた当初は、むしろ「メジャーに行くくらいなら野球を辞めます」とまで周囲にいい切っていた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.