日本の強みを生かせ、スマートテレビはチャンスだぞ中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2/2 ページ)

» 2013年01月03日 00時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]
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1.メディア環境

 日本は通信・放送融合ネットワークが完成した。地デジが整備され、高水準のブロードバンド網が全国整備されている。それを柔軟に使うための法制度:融合法制も昨年、施行された。環境的には最高だ。スマートテレビは、マルチデバイスと広帯域ネットワークとソーシャルサービスの組み合わせだが、日本にはそれが十分にみなぎる。

 50年普及したテレビ、15年普及したPCとケータイ、これに次ぐ第4のメディアが一斉に普及していることは繰り返し述べているが、スマテレもその1つ。マルチスクリーンは、テレビから辿ってテレビに戻る一種の回帰現象といってよかろう。

2.ユーザー力

 参加するテレビ、それがスマテレのキモだ。

 元来テレビはコミュニケーションの手段だった。茶の間に恭しく鎮座したテレビの周りで家族が時空間を共有する。それが1人一台になって、家庭コミュニティとコミュニケーションが分散した。それを今度はバーチャルなコミュニティで結び直す。それがスマテレの意図するもの。

 となると、視聴者、いや、ユーザーのコミュニケーション力がスマテレの質を規定する。その点で、日本は負けない。

 2011年12月9日、「天空の城ラピュタ」の滅びの呪文が、秒間ツイート数2万5088件に達し、世界記録を樹立した。アニメの再放送をみんなで見ながら、つながり感を共有して、「バルス!」。どうだ、このテレビ+ソーシャル度。外国にはマネできまい。

 テレビ、PC、ケータイの3スクリーンを同時に使いこなす若者が大勢いる。世界のブログで使われている言葉を総計すると日本語が英語を抑えてトップ。そうした若い世代のネット利用力はスマテレの発展を下支えするはずだ。

3.産業構造

 日米のテレビ産業には大きな差がある。

 米国はプレイヤーが多様。スマテレを巡る動きを見ても、放送局がHuluを仕掛ける一方、タイムワーナーやコムキャスト、DirecTVなどケーブルや衛星も力を入れる。AT&TやVerizonなどの通信系もIPTVでアピール。そして何より、Google、Apple、マイクロソフトなどIT系、コンピュータ系が全体を引っ張る。放送局はそれほど存在感がない。これは制作・伝送分離など過去の政策による帰結でもある。

 日本のテレビは放送局が中心だ。電波もコンテンツも握っている。放送局に対する規制は緩く、新聞社と結びついた政治力もある。スマテレの立ち上げをうながすのであれば、善し悪しではなく、この状況を「生かす」のが近道ともいえよう。通信・放送融合では日本は立ち後れた。スマテレは、先んじたい。

 融合メディア環境を生かし、ユーザーのコミュニケーション力を発揮させ、放送局が力を入れてサービスを開発する。これがスマートテレビへの日本型アプローチだろうう。それはGoogle TVやApple TVが提案するスタイルとも異なる、日本の強みを発揮した独自のサービスであり得る。チャンスを生かせるかどうかが問われる場面だ。

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