つば九郎だけじゃない! スワローズが展開するPR戦略(1/3 ページ)

» 2013年01月15日 08時00分 公開
[小槻博文,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:小槻博文(おつき・ひろふみ)

合同会社VentunicatioN代表。ベンチャー企業の広報立ち上げ・自立運営を支援。1973年東京都出身。1996年早稲田大学卒業。外資系旅行会社でのウィーン駐在を経た後、約10年にわたり事業会社にて一貫して広報に携わる。その後ベンチャー企業の広報支援に関する起業を志し、1年半ほどPR会社にて新たな視点からの広報経験を積んだ上で、VentunicatioNを設立。


 一般的に球団広報というと、監督や選手のインタビューを調整・セッティングする仕事とイメージされることが多いと思うが、実際の業務・役割は球団によって異なる。

 東京ヤクルトスワローズ球団の場合は、「球団を知ってもらい、興味を持ってもらうことで、球団の人気を底上げする」ことを広報・PR活動の目的としており、「マスコミ対応」「WEBプロモーション」「紙媒体の制作・発行(主催ゲーム時にスタジアムで発行する広報誌など)」「地域プロモーション」「マスコットプロモーション」「広告プロモーション」「他スポーツとのコラボレーション」など多岐にわたる活動をさまざま組み合わせながら、2人体制で進めている。

 その中でもスワローズの広報・PR活動の特徴として、マスコットキャラクター「つば九郎」の積極的な活用が挙げられる。

 「マスコットの特徴として、選手と違い怪我をしないこと、スケジュール調整が容易であることが挙げられます。また野球に興味がない方にも、マスコットキャラクターであれば関心を持ってもらうことも可能です。そしてマスコットを活用することで、球場外など活動の範囲を広げることができるようになります」(ヤクルト球団広報部の加藤謙次郎氏)

 例えば「つばさんぽ」という名称で、観光地や商店街など都内各所に「つば九郎」がおもむいては、住民やファンと交流するという企画を2010年から実施している。また最近よくニュースを目にする「つば九郎、フリーエージェント宣言!」企画ではJリーグのFC東京や角界などとコラボレーションしたり、「つば九郎の契約更改」といった企画を展開したりするなど、マスコットを積極的に活用している。

つば九郎FA宣言(出典:公式サイト)

まずは関心を喚起しながら中長期でファン作りを

 これらはえてすると話題先行の一過性の施策に思われるかもしれないが、実はプロ野球を取り巻く環境の変化に対応するために考え抜かれた施策だった。

 昔は誰もが多くのプロ野球選手を知っていたし、プロ野球の話題が日常的に交わされてもいたが、最近はプロ野球離れが進んでいると言われて久しい。

 スワローズは東京に本拠地を置く球団だが、東京都の人口が約1300万人なのに対してホームゲームの年間来場者数は約130万人と1割に過ぎない。プロ野球は今でもメディアに積極的に取材され、相応の報道がされているにも関わらず、観客数の増加につながっていないのが現状なのだ。

 「チームの勝敗や選手の人気をコントロールすることはできません。しかし外部環境が変化する中で、それ以外の部分でチームを盛り上げることによって、東京ヤクルトスワローズという球団を知ってもらい、興味を持ってもらい、そして球団人気の底上げを図ろうと考えました。つまり中長期視点でファンを作っていこうということです。

 そしてその1つが『マスコットプロモーション』であり、“つば九郎”を積極的に活用することでメディアに取り上げられる機会を創出するほか、『地域プロモーション』や『他スポーツなどとのコラボレーション』などとも絡めながら相乗効果を図っています」(同氏)

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