サッカー八百長の魔の手、日本代表試合にも伸びていた!?伊吹太歩の世界の歩き方(2/3 ページ)

» 2013年02月14日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

黒幕の名は中国系シンガポール人「ダン・タン」

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 そして関係者の間では、八百長界の大物リーダーの1人が、すでに特定されている。ユーロポールも名指しはしないものの、その黒幕の存在をはっきりと認識しているはずだ。その人物は、シンガポール人のタン・シート・エング。彼は八百長捜査に関わる世界の捜査機関の間では「ダン・タン」という名で知られている。

 40代の中国系シンガポール人のダン・タンは、2011年にその名前が広く知られるようになった。同年、フィンランドでダン・タンのシンガポール人仲間で大物の八百長フィクサーが八百長で逮捕されたからだ。そして彼もそのシンガポール人と近い関係にあった。

 実はダン・タンは、イタリア当局から八百長組織のリーダーとして指名手配されている。それ以外にも、ドイツなどでの八百長裁判にも、彼の名前がたびたび登場するなど、もはやサッカーがからむ八百長の世界では、彼を知らない者はいない。彼は少なくとも2012年半ばまで、シンガポールの高級コンドミディアムに暮らしながら高級車を乗り回し、悠々自適の生活を送っていた。しかも2011年に自分の名が取り沙汰された際には、地元紙のインタビューに応じて、無実を主張していた。

なぜシンガポール当局は逮捕できないのか

 前出のヒルは、なぜシンガポールは彼を摘発しないのかと疑問を投げかける。歴史的に汚職に対して強硬な政策を続けてきたシンガポール側は、今以上に確実な証拠がなければシンガポールにいるとされる八百長組織幹部たちを逮捕できないという立場を通している。だがそんな悠長なことを言っている間にも、サッカーの本場として多くの試合が日々行われるヨーロッパで八百長の主犯とみられている人物が、証拠隠滅などをしてしまう可能性が高いと、ヒルは指摘する。

 シンガポールが摘発に乗り出さないのには、シンガポール独特の理由があるとみられる。歴史的にシンガポール政府はどん欲なまでに世界からよく見られようとしてきた。「明るい北朝鮮」と呼ばれるほど国民の自由を厳しく制限して近代的な都市国家というイメージを作り上げ、外国人や外国企業を国民以上に優遇し、イメージアップから外資獲得と外国投資を呼び込んできた。それこそが、資源のないシンガポールが生き残る唯一の方法なのだ。

 そんな状況の中で、世界的な八百長組織のリーダーがわが物顔で生活していたとなれば、国の評判に傷がつく。シンガポールはそれを恐れていたのではないか。ユーロポールの発表で、世界的な八百長組織の拠点として今回名指しされたシンガポール政府は怒り心頭なはずだ。名誉挽回のために政府として何らかの動きを見せる可能性は高い。

 ただし、ダン・タンを摘発するのはもはや難しいだろう。というのも、彼はすでに行方をくらませており、シンガポールを離れたという話もある。「時すでに遅し」ということだろう。

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