アニメ海外進出のカギは何? 大切なのは産業と文化の並立アニメビジネスの今(2/3 ページ)

» 2013年03月12日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

東南アジアシフトとオールジャパン体制

 2012年11月末から2013年3月上旬まで行われたテーマ・ワーキングに私も半分以上参加し、多くの情報や意見が交換される場に立ち会った。すべてのテーマ・ワーキングがうまく機能していたわけではなかったが、そこで得られたものは大きかった。

 そして、全体を通じて感じたことが2つあった。1つは「中国から東南アジアへのシフト」、もう1つは「オールジャパン体制」である。

 中国についてはこの数年間、筆者も含めアニメ産業の注目を集め続けていた。しかし、中国では政府を始めとする規制が厳しく、事業者レベルで対応できるものではないことが明らかになってきた。そんな状況下、2010年以来の尖閣諸島を巡る中国の対応を見て、アニメ産業界のテンションもかなり下がったのは間違いない。

 同時に芽生えはじめた機運が、東南アジアへのシフトである。シンガポールを基点として、インドネシア、マレーシア、タイを経てインドまでが対象となるが、シンガポールについては、以前「米国アニメ産業はアウトソーシングで空洞化したか」で述べたように、『あらしのよるに』の成功例や、ブシロードのシンガポール移転の話などですでに実績が積まれつつある。

 また、インドでは『巨人の星』のインド版である『スーラジ ライジングスター』や、2012年5月にスタートした新作『忍者ハットリくん』が人気ナンバーワンの『ドラえもん』と視聴率を争うようになっていると、インドのアニメ業界人や研究者から直接聞いている。

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 数年間に渡り、ほとんど結果を出せずにいた日中ビジネスに対し、はるかに遠いインドでは短期間で成功にたどり着いている。このように東南アジアでの成功例が実際に出てきたことで、中国離れの傾向に今後、拍車がかかるものと思われる。

 ただし、ABPFのテーマ2「アニメ&キャラクターでつくる世界商品」の中で行われたサンリオのプレゼンでは、キティちゃんなどのキャラクタービジネスが中国でかなりの成功を収めていることも紹介された。

 中国で日本製アニメが実質的に輸入禁止状態にあるのは、政府上層部が日本文化の浸透を嫌ってのこと。キティちゃんの成功は、「キャラクター単体であれば、動画が持つような文化的な影響力は小さい」という認識のためにもたらされているのかもしれない。

『スーラジ ライジングスター』のビジネスモデル

 東南アジアへのシフトと同時に感じたのはオールジャパン体制である。

 これは、実際にテーマ・ワーキングで話されたことだが、東南アジアに店舗を拡大中の大手流通チェーンが現地に出店するのを契機として、店内にキャラクターモールを設け、同時にそのキャラクターが登場する作品の放送も日系テレビ局で開始するという、流通、製作会社、放送局、製作会社、玩具会社などが一丸となって出て行こうというプロジェクトである。

 少子高齢化が進む日本において、海外進出という命題はアニメのみならずどの産業にもあったが、実際やってみて感じるのは企業体力のなさだ。また、個々の企業で挑戦するのは、いかにも効率が悪い。そうした経験を踏まえてABPF内で出てきたのが「オールジャパン体制」である。同業種、異業種を問わず、目的が一緒であれば同じ船に乗って漕ぎだそうというものである。

 実際、インドの『巨人の星』である『スーラジ ライジングスター』の実現には講談社、博報堂、トムスエンタテイメントを中核として、スポンサーにANA、スズキ、JTB、コクヨ、ダイキン工業、日清製粉が付いている。その辺は、番組仕掛け人である講談社の古賀義章氏が書いた、『飛雄馬、インドの星になれ!―インド版アニメ『巨人の星』誕生秘話』に詳しいのでご一読を。

 『スーラジ ライジングスター』のビジネスモデルを見ていると、ABPFを行おうとしていることそのままである。あとはマッチングの問題だろう。そうした期待を担うABPFだが、3月22日10時から東京国際アニメフェアで第1期の成果発表&第2期参加募集のシンポジウム&セミナー(無料)を開催するので、興味のある方はぜひ来ていただければと思う。

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