この連載は書籍『日本人が気づいていないちょっとヘンな日本語』(アスコム)から抜粋、再編集したものです。
日常会話でよく使う日本語なのに、実は日本人自身もよく分かっていない。よく使うけど、考えてみたらちょっと不思議な日本語……。そんなこと、ありませんか?
「ピンからキリまで」の「ピン」って何のこと? とか、「全然OK」は間違った使い方と言われるけど、実は間違いではないって知っていましたか?
私たち日本人が「当たり前」と思っていることも、外国の人たちから見ると「ヘンだよ、おかしいよ」ということがたくさんあります。間違った日本語ということではなく、外国人の目から見て奇妙に見えるということです。
この本では、英語教師デイビッド・セイン氏が持つ日本語の疑問について、日本語教師である長尾昭子氏が答えていきます。みなさんも、質問に登場する「日本語」の中に「日本語のおもしろさ」を再発見できるはずです。「ヘンだけどおもしろい日本語」の世界を、一緒に探検してみませんか。
デイビッド・セイン
アメリカ出身。英会話学校経営、翻訳、英語書籍・教材製作などを行うクリエイター集団「エートゥーゼット」の代表。これまで累計350万部の著作を刊行してきた英語本のベストセラー著者。日本で30年以上の豊富な英語教授経験を持ち、これまで教えてきた日本人生徒数は数万人に及ぶ。
長尾昭子(ながお・あきこ)
公益社団法人国際日本語普及協会(AJALT:文化庁所管の外国人への日本語普及・教育機関)講師。慶応大学卒。欧米人のビジネスパーソンや外交官の間で大人気の教師で、教科書作成や日本語教師向けの雑誌への連載執筆の実績多数あり。
セイン:前から日本語で不思議に思っているのは、探し物をしている人の「ないかと思って」という言い方です。
先日も、英語を教えている生徒さんが教室に財布を忘れて、あとから取りに戻ってきました。ぼくが「どうしましたか?」と聞いたら、「財布が見つからないんです。ここになかったですか?」と言いました。
「ここにあるんじゃないか」と期待しているのに、なぜ「なかったですか?」と否定的な言い方をするんですかね。
ほかにもあります。ニュースを聞いていると、何かの事件について「警察は安全管理に問題がなかったかどうか調べています」と言います。警察の人はきっと「問題があったに違いない」と疑っているんですよね。なのになぜ「なかったかどうか」になるのでしょう。
長尾:そういえば、電車で空席を探すときなどに「隣の車両は空いてないかしら」とか言いますね。「ないことを期待しているみたい」と言われてしまうと、確かにそう見えるかもしれません。
もしかすると日本人は悪い方を予測することで、ショックを和らげようとしているのでしょうか。
セイン:そういえば、レストランなどで空席を店員さんに尋ねるときには「空いている席はないですか?」と聞きますね。あることがかなり確実なときは「ありますか?」で、あるかどうか分からないときは「ないですか?」なんじゃありませんか?
長尾:「さがす」という日本語には、2つの漢字があります。「探す」は、あるかどうか分からないものを見つけようとするとき、「捜す」は、あったものがなくなってその所在を見つけようとするときに使います。金の鉱脈は「探す」で、落とした財布は「捜す」ですね。もしかすると、そのこととセインさんの仮説は関係があるかもしれません。いいところを突いていると思いますよ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング