烏賀陽氏の言葉を借りれば、「原発に無知だった、凡庸な市民の1人でしかなかった私による原発の故郷訪問記」の体裁となっている。
『ヒロシマから〜〜』の中で特筆すべきなのは、烏賀陽氏が日本に原発建設の黎明期を知る学者、そして東京電力の元幹部に直接インタビューしている点だ。
福島の原発事故以降、ちまたには原因調査を巡る各種報道が溢れた。だが、私が知る限り原発黎明期の重要人物に直接話を聞いているものはなかった。
以下、その中の一部を引用する。東電の元副社長で、福島第一原発の導入から立地まで関わった高齢の男性だ。
電力自由化時代になって、社長や経営者がカネをけちって『安全にはカネがかかる』と言うと嫌な顔をするようになった。そのしわよせみたいなものを隠したりごまかしたり『安全についてもできるだけカネを節約する』ということで、今回みたいなことが起こったんじゃないかという感じもします。
今回みたいなこととは、もちろん2年前の事故を指す。東電の元幹部だけでなく、国費で米国に留学し、技術を持ち帰った人物の長いインタビューも掲載されている。虚飾抜きにつづられる原発の生き証人たちの言葉は、重みがある。
再稼働の権限を持つ人々、あるいはこれを見守る我々のような一市民にしても、なぜ原発が日本にあるのかという根本的な事柄を見つめ直す必要があるのではないか。同書は、誰も言わなかった「そもそも」の部分を深くえぐった必読の書だ。
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