1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
昨日は「土用丑の日」だった。価格が高騰して庶民にはなかなか……なんて言われながらも、スーパーや専門店では多くの人が鰻を食した。
「土用丑の日」というイベントがいかに日本人に定着しているかということだが、実はこの食習慣が生まれたのはわりと最近で、文化文政年間(1804〜1830年)。その背景には、鰻屋の厳しい台所事情があった。
奈良時代から「鰻=夏バテ防止」的な位置付けだったが、夏の鰻屋は閑古鳥が鳴いていた。実は鰻の脂がのっておいしいのは冬眠に入る秋から冬にかけて。味にうるさい江戸っ子たちは、「旬」ではないものなどわざわざ食べなかった。
そこで、どうにか理屈をこねて食べさせられないか、ということで鰻業界はあるキャンペーンを思いつく。
「う」のつくものを食べたら縁起がいいとされている「土用丑の日には鰻を食べよう」みたいなことをふれまわったのだ。
現代にも通用しそうな斬新な発想だが、それよりも驚くのは200年経過した今もこのプロパガンダ(情報操作)がまったく色褪(あ)せず定着していることだ。
日本人は人がいい。「母さん助けて詐欺」なんてのが流行することからも分かるように、どんなにいかわがしい相手でも一度信頼すると、コロっと騙される。
だから、新聞が「自民圧勝」と繰り返し報じると、「なら投票しても意味ないよな」と思うし、「ネット選挙はまだまだ手探り状態」とキャスターが解説すると、「そういうものか」と納得して候補者のFacebookをチェックする気が失せる。
これをプロパガンダの世界では「アナウンス効果」と呼ぶ。
おいおい、中立公平のマスコミがそんな真似をするわけあるか、とお叱りの声が飛んできそうだが、彼らにも江戸の鰻屋と同じくそうせねばならない「厳しい台所事情」がある。
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