「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)リニューアル記念企画「これからの働き方、新時代のリーダー」(3/4 ページ)

» 2013年09月02日 01時00分 公開
[嶺竜一,Business Media 誠]
Business Media 誠編集長、吉岡綾乃

吉岡: それは少しうらやましいところでもありますね。Business Media 誠でも、他ではやっていなくて読者にぜひ読んでもらいたい記事を流しているんです。最近では、イスラム関連の連載を始めたり、中国経済の記事を載せたりと、読者に読んでほしい国際ネタについての記事も載せているんですが、PV(ページビュー)という観点ではなかなか苦戦しています。

 あと、他の人がよく読んでいる記事を選んで読む傾向がありますね。ランキング上位の記事とか、有名人がシェアした記事とか。「よく読まれた記事」は「もっと読まれる記事」になりやすい。

池上: それはすべてにおいてそうでしょう。本だってベストセラーばかり売れるわけです。いま話題の本なのに読んでなかった。話題に乗り遅れるから読もうって。『伝え方が9割』という本はよく売れているらしいからこれは読んどかなきゃいけないんじゃないかとか、半沢直樹が話題だから見ておかないといけないとか。そういう「一人勝ち」が昔に比べてはるかにどんどん広がっていますよね。

吉岡: でもそれって、もったいないですよね。本来、知識というのは他人が知らないから価値があるのに……。みんなが知っている情報ばかり集めて、そうでない情報は知ろうとしない。それだと、確かに広がっていかないですね。

池上: 自分に直接関係がある情報だけを知りたいんですね。それで、話題になっていない情報は自分に関係がないと思っている。だけど例えばイスラムの話でも、「これはじつは日本にとっても関係がある話なんですよ」と僕が言うと、それまで興味のない顔をしていた人が、「え、どういうことですか?」って急に食いついてくる。だから情報を発信する側は、読んでもらいたければ、読者に直接関係のある話なんだということをどこまでアピール出来るのかがポイントになってくる。あるいはそういう問題意識を持って取材をしたり原稿を書いたりすると、ずいぶん違ってくると思いますね。

――なるほど。アドバイスありがとうございます。ところで次のステップとして、得た情報をどのように理解していくかということが重要だと思います。個別の情報をたくさん得たところで、「結局のところどうなの?」というところで止まってしまっている人も多いと思うのですが、いかがでしょうか。

池上: 確かにそこが難しいんですよね。じつは報道というのは、書き手の立場によって変わってくるものなんです。例えば新聞の政治部の記者って、大勢の政治家を取材して記事を書いていると思われていませんか。

吉岡: え、違うんですか?

池上: 違いますよ。自民党の中でも派閥ごとに担当が分かれていて、例えば町村派担当であれば、町村派には詳しいけど、ほかの派のことはあまり知らないし、まして民主党や公明党のことなんて全然知らないですよ。政治記者はそれぞれの派閥にどこまで深く食い込むかが重要なんです。政治や政策の記事ではなく、政局記事ばかりになってしまう。

吉岡: だから新聞の政治記事って面白くないんですかね。担当記者が一方の立場で記事を書いているから。

池上: そう。だから読み手は難しいですよね。政局についてももちろんだし、政策についてもそう。例えばTPPについて考えるとき、TPPとはどのようなもので、この後TPPに正式に参加することになったら、日本経済や私たちの暮らしにどのような影響が出てくるのかということを新聞が書くわけですよね。でも、政治部には経済産業省の担当記者と、農林水産省の担当記者がいて、それぞれの立場で書くわけですよ。

 そうすると読者は、細かい項目については分かっても、「要するにTPPってどういうものか」という全体像が、なかなか見えてこない。そこをうまくまとめて読者に提起するということが新聞においても欠けているし、いろんなメディアにおいても欠けているんじゃないかなって思うんですよね。

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