「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)リニューアル記念企画「これからの働き方、新時代のリーダー」(4/4 ページ)

» 2013年09月02日 01時00分 公開
[嶺竜一,Business Media 誠]
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吉岡: 「要するにどういうこと?」を示す記事は、Business Media 誠でも意識して載せるようにしています。そういう記事、私たちはすごくニーズがあると思っていますが、実際には少ないですよね。

池上: じつは私が本やテレビでやっている仕事はそれなんです。いろんなニュースがあるけれど、「要するに何?」というところを、みんなが考えられるように、まとめをしているんですね。

吉岡: なるほど。でも、同じ情報をまとめるにしても、意見が分かれているものは難しくありませんか。例えば、TPPについてまとめようとすると「やっぱり参加しなきゃいけないよね」というまとめ方にも、「TPPなんかに参加したら日本は大変なことになる」っていうまとめ方にもなって、正反対の意見が出てきますよね。そのどちらが正しいのか、それを判断するのもまた難しいです。

池上: そうですね。難しいんですが、それは読者が判断すべきことだと私は思うんです。「で、結論はどうなんですか。池上さんはどう思うんですか?」ってよく聞かれるんですが、「そこは自分で考えてください」って言います。みんな、誰か信頼出来る人に「これはこう考えればいいんだ」って言ってもらいたいわけですよ。でもそれでは本当はいけないんですよ。答えは自分で見つけないと。私はそのための材料を提供しているんです。TPP ならば、経済産業省のシナリオだとこうなり、農林水産省のシナリオだとこうなる、賛成論の主張はこうで、反対論はこう。で、答えがどうなのかは、自分で考えてくださいというスタンスですよね。

吉岡: まさに、自分で考えて答えを見つけなくてはいけないと思います。でないと危険ですよね。そこで私が思うのは、そのために必要な情報を網羅的に提供できるのがネットメディアの良い所だと思うんです。

池上: そう思います。賛成論、反対論、それぞれの主張を紹介して、両方の意見を読めるようにする。それぞれの主張の根拠となるソースにリンクを張って、もっと詳しく知りたい人はここを読んでください、といってより深く勉強してもらうこともできますよね。

 →仕事で他の人に差を付けるには? 池上流「選挙特番の作り方」――池上彰×吉岡綾乃(後編)

池上 彰(いけがみ あきら)

 ジャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。1994年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。

 『伝える力』『そうだったのか!現代史』『この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義』『学び続ける力』など、著書多数。


吉岡綾乃(よしおか あやの)

 Business Media 誠編集長。慶應義塾大学大学院文学研究科東洋史学専攻修了。1997年、ソフトバンク出版事業部(当時)に新卒入社。「DOS/V magazine」編集部へ配属され、PC雑誌の編集者として経験を積む。2005年、アイティメディアに入社。「ITmedia +D Mobile」編集部で記者としてキャリアを積んだ後、「ITmedia ビジネスモバイル」(2005年)、「Business Media 誠」(2007年)の立ち上げを担当し、今に至る。


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