なぜワーナー・ブラザースは“邦画”を作るのか? 最新作は渡辺謙主演の時代劇だそれ、ちょっと気になる!(1/3 ページ)

» 2013年09月26日 15時00分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

連載「オカちゃんの『それ、ちょっと気になる!』」とは?:

Business Media 誠編集部には毎日、数百件のニュースリリースが舞い込みます。その中から、「何だか、それ、ちょっと気になる!」と思ったネタを、いわゆる「団塊ジュニア」と定義される最終年に生まれたアラフォー編集者オカダが仕事と趣味を兼ねて取材します!


許されざる者 (C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 2013年9月13日に封切られた映画『許されざる者』。明治維新期の北海道を舞台に、生と死、そして善と悪とは一体何なのかを見る者に訴えかけてくる作品だ。

 渡辺謙が演じる釜田十兵衛は、かつて“人斬り十兵衛”と恐れられた男。人里を離れ、幼い2人の子供と蝦夷の荒野で暮らす十兵衛のもとに、昔の仲間が協力を求めてくる。女郎らが客に顔を切り刻まれた同僚のかたき討ちに賞金をかけたというのだ。亡き妻に「二度と刀を抜かない」と誓った十兵衛は一度は断ったものの、子供たちのために誘いに応じるのだった……。

Unforgiven 『Unforgiven』

 というストーリーを読んで、「おや?」と思った人は映画通かもしれない。そう、『許されざる者』は1992年のアカデミー賞最優秀作品賞を取ったクリント・イーストウッド監督の西部劇『Unforgiven(許されざる者)』を同時代の日本に置き換えたアダプテーション(翻案)作品なのだ。

 しかも製作は米ワーナー・ブラザースの日本法人ワーナー エンターテイメント ジャパン。洋画の配給を行う会社が邦画を作っている? 何だか、いろいろ気になる! この映画の製作総指揮にも名を連ねるウィリアム・アイアトン社長を直撃した。

イーストウッド事務所から数日で「Boss says OK」が届いたワケ

ウィリアム・アイアトン ウィリアム・アイアトン社長

 「ワーナー・ブラザース約90年の歴史の中で、これまで5000本以上の映画を製作しているわけですが、その中でアカデミー賞最優秀作品賞を取ったのは約10本です。『Unforgiven』はその中の1本ですから、われわれにとって大きな資産。李相日監督が、その舞台を日本に置き換えた邦画を作りたいと提案してきたときには、思い切った企画を持ってきたなあと思いましたね。でも李監督の熱意を聞くと、主演は渡辺謙さんでやりたいという。この2人に任せるならば、いいものができるなと確信しました」

 『フラガール』や『悪人』といった代表作を持つ李監督は39歳、若手実力派監督の1人だ。学生時代に『Unforgiven』を見たという李監督は、本作の完成報告記者会見で「当時はこの映画の良さがよく分からなかったのですが、得体のしれない衝撃を受けました。まだすべてを理解できたとはいえませんが、年齢を重ねると見えてきたものがあります。それは大切に引き継ぎました」とコメントしている。

 企画は米国本社にも伝えられる。すると「作って採算が取れる計算だろうね? グリーンライト(映画製作の承認)を出すか、出さないかはシナリオができてから判断するけど、イーストウッド監督の事務所(マルパソ プロダクション)には日本法人から聞いてよ」という答えが。

 アイアトン社長自身、『硫黄島からの手紙』の配給を手掛けており、イーストウッド監督とのコネクションがあった。そこでプロデューサーのロブ・ローレンツ(Robert Lorenz)に電話してみると、2〜3日後に「Boss says OK」という返事が戻ってきた。

 「うわー、これでいいのかなーって(笑)。すぐに李監督にも電話したら『へええ』と、びっくりしながらも喜んでもらって。こんな簡単にOKが出るとは思っていなかったんです。本当に早いんですよ。まあ、裏にたくさんのネゴシエーションがあったとは思うんです。謙さんもロブさん経由で話をされていたみたいですし」

 翻案企画がすんなり通ったのも、渡辺謙とイーストウッド監督の友情、そしてワーナー日本法人の間にあった信頼のきずなゆえのこと。それに加えて、イーストウッド監督自身の出世作『荒野の用心棒』が黒澤明監督の『用心棒』の翻案作品だったことへの時代を超えた日本映画界への恩返しの気持ち。この映画にはそんなアツいドラマも隠されているのだ。

許されざる者 『許されざる者』の主要キャスト。左から忽那汐里、柳楽優弥、柄本明、渡辺謙、佐藤浩市、小池栄子、李相日監督

 『許されざる者』は、ベネチア国際映画祭で特別招待作品として上映され、観客は数分間のスタンディングオベージョンを惜しみなく送ったという。このほかにもトロント国際映画祭や釜山国際映画祭にも出品され、ほかにもいくつかの映画祭からオファーが届いている。ひょっとしたら日本法人が製作した時代劇が、米国本社の配給で北米でも上映される日がくるかもしれないと考えると、実にワクワクが止まらなくなるのだった。

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