中国のネット検閲、ハーバードの教授が偽サイトを運営して体験してみた伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2013年09月26日 06時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

ハーバード大の教授が中国で偽SNSを運営してみた!?

 だが最近、米ハーバード大学政治学部の教授らが、運営側の検閲を実際に体験してみる「実験」を行った。そして今月、その結果を公表したことで、前代未聞だと話題になっている(参照リンク)

 教授らが研究対象にしたのはソーシャルメディア。実際に中国で偽ソーシャルメディアサイトを立ち上げてみて、登録や運営の中でどんな検閲を指導され、どんな規制やガイドラインがあるのかを探ろうとしたのだ。

中国検閲 ゲイリー・キング教授らによる、中国の検閲の典型的な流れ

 実験を行ったのは、ハーバード大学政治学部のゲイリー・キング教授らの研究チーム。彼らはまず一般人を装って中国国内でURLを獲得し、ソーシャルメディアの運営ソフトを提供する中国最大級のIT企業と契約。ソフトをその企業から購入して実際の「顧客」になることで、検閲などについての情報を、カスタマーサポートなどから直に手に入れることが可能になった。

 そしてそのIT企業は研究チームに、運営ソフトとともに「検閲ツール」を提供した。その検閲ツールとはどんなものだったのか。

 そのツールは、これまで一般的に知られているような、アップされた情報を「工作員」が削除していくという手法とはかけ離れた、複雑な自動検閲システムだったという。もちろん運営側が手動で特定の言葉や単語を削除もできるが、アップした情報がサイトのどこに表示され、どんな長さで、誰が会話を始めたのか、どのタイミングで情報が書き込まれたのかなどのデータを基にユーザーをチェックして、ユーザーの活動を制御できる。

 さらにIPアドレスを指定して特定のユーザーのコミュニティでの評判やアップ内容などをモニターし、厳しい検閲を行うことも可能だった。研究チームがカスタマーサービスに問い合わせてみると、さらに重厚で複雑な検閲を行うためのプラグインなどが有料で用意されていることが分かった。

 さらに興味深いのは、こうした検閲ツールに政府が関与していないことだ。サーバー側やサービスを提供する側は、検閲しなければ政府に目をつけられ死活問題になる。よりよい検閲ツールやシステムの需要は高まり、中国のソフトウェア企業がさらに優れた検閲ツールを提供するために、資本主義市場で競争・開発合戦を行っていることが分かったのだ。

 皮肉なことだが、「市場原理」が中国政府の検閲を支えていたということになる。検閲が立派な1つの商売になっており、いわば検閲ツールの開発競争が行われる「シリコンバレー」が中国にあったという見方もできる。

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