鉄道イベント列車が快走する――“おもてなし”の心を乗せて杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)

» 2013年10月18日 06時50分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

もうけは少ないが、得るものは大きい

 「北陸本線100周年記年号」の旅は、大人1人1万1800円だ。この価格について考察してみよう。糸魚川から敦賀までの乗車券は4620円。急行料金は1260円、さらにお弁当、お茶、あんころ、乗車記念品のキーホルダーなどが加わる。この残りが旅行会社の粗利となる。ただし、その中には伊藤敏博さんや音響スタッフなどコンサートの諸費用、添乗員の費用も含まれる。

 駅で列車を撮影する参加者の仕切りも必要なため、添乗員は一般のツアーよりも多めのような気がする。貸切列車のため、JR西日本に支払う料金もきっぷ×人数だけではない。もちろん、車種を指定した貸し切り列車の運行とあれば、JR西日本との調整も手間がかかる。そして各駅でのイベントの手配……。そう考えると、このツアーはあまりもうかっていないんじゃないかと心配になる。しかし、もうかっていなくても赤字にはなっていないだろう。こうしたツアーは最低催行人数という損益分岐点が設定されているからだ。

 JR西日本にとっても大きな利益が出る構造ではなさそうだ。各駅では駅員を配置し、普段は委託職員1人だけの今庄駅も増員、さらに各駅で警備員を動員している。驚くことは、車窓から観察すると、沿線の撮影名所、通称「お立ち台」にも警備員や整理役の社員を配置していた。「北陸本線100周年記年号」で使われた475系は、北陸新幹線の開業までに廃車となるという噂があり、うち3両はすぐにでも廃車かもしれない、普段より多くのファンが沿線を訪れていた。JR西日本関係者によると、13日の沿線の様子を見て、14日はさらに増員したという。

 全国からイベント列車に乗りに来てくれる。だから旅客実績では純増だ。この列車だけではなく、接続する列車の収入効果もある。しかし、そのための人件費が多いし、車両のやりくりや他の列車へのダイヤへの影響など現場職員への負担も増える。それでも、JR西日本は積極的に鉄道イベント列車を運行している。その理由はなんだろうか。関係者に聞いてみた。

 「私たちが得るのは利益だけではないんですよ。今回は特に、100周年を迎えたという感謝の気持ちが大きい」

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