中国で“成功の定義”が変わり始めている――どのように?女神的リーダーシップ(3/4 ページ)

» 2013年12月31日 08時25分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

かつてなかった慈善事業や民間奉仕団が生まれている

 中国系米国人二世のカルヴィン・チンは、成功への近道を求めて2004年に上海に移民、目指す近道はハイテク製造業界にあると考えた。この分野では、輸出事業の振興と低賃金を追い風に、中国企業が他国のライバルと比べて大きな優位性を持っていたからである。チンが参画したSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)という新興企業は、雇用創造に熱心な自治体との連携によって急成長していた。彼はSMICで超多忙な三年間を過ごし、会社がIPO(新規株式公開)を果たした後に退社してビジネス・コンサルタントとして独立した。この間、「せっかくの人生なのだからもっといろいろなことに挑戦したい」という共通の志を持つ人々との交流を通じ、利益を追求しながら社会のためにもなる自立型事業を立ち上げたいと考えるようになった。

 チンは友人たちとともに、人生により深い満足を求めようとしていた。「あれだけの経済成長の後でも、相変わらず『人生は虚しい』と感じることもあるのです」。富を得ても大して幸せにはならないという虚しさは、にわかに大金を手にした起業家に特有のものかもしれないが、もしかしたら社会的な関心事でもあるかもしれない。中国で大富豪が続々と誕生したのを受けて、一般の人々は心を躍らせ、強い憧れを抱いたが、他方では、競争経済のもとで生じる不平等について「これでよいのか」と疑問を持つようにもなった。

 今日の中国についてチンは「老女がゴミ箱を漁るそばを若い女性が高級スポーツカーで通り過ぎる、そんな光景が目に入るでしょう」と話す。中国の若年成人層は、教育費や医療費の高騰に気を揉み、高齢の両親や祖父母の介護に大きな不安を抱いている。このような懸念は、中国的な価値観や「成功した素晴らしい人生」の定義をめぐる議論を引き起こすと同時に、高邁な目的のためのイノベーションを可能にする、新たな発展段階の到来を告げているのかもしれない。

 チンは、SMICで得た教訓と収入を生かして、チファンという小規模な奨学基金を知人とともに設立した。チファンはものの数カ月で2500人に奨学金を貸与する段取りを整え、個々の奨学生の返済能力をもとに利率を決めた。返済の遅れは1件もなく、チファンの成功は世界的な注目を浴びた中国で社会的企業がうまく機能することを証明できたため、チンは運営の第一線から退いて残った仲間たちにチファンのサービスを拡充を委ね、自分はトランシストという別の組織を立ち上げ。トランシストは、「利益と社会目的」の両方を追求する新興企業を対象に、技術支援と100万ドルまでの資金援助を行う。中国人と外国人のアドバイザーで構成するチームが、各種の研修セミナーを実施する。「リーン・スタートアップ・マシン」という3日間のコースでは、新規事業のアイデアをどう検証、実行すべきかを指南している。出資提案も募り、これまでに将来有望な四社に資金を拠出、そのうち3社はネット系金融サービス事業を展開している。残る1社ユナイテッド・スタイルズは、自社サイト上で消費者に希望の服をデザインしてもらい、それを製造して世界のどこへでも届ける。価格をおよそ130ドルに抑えながら、環境に優しい最先端の技術を用いた製品づくりをしている。

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