「未経験者歓迎」という求人広告の裏に秘められた企業の思惑とは?サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2014年02月03日 08時16分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

「自分にしかできない仕事」なんて、ほとんどない

 仕事について勘違いしがちなことの一つに「自分にしかできないことを持っておくべきだ」という考えがあります。確かに、オリジナリティは重要ですし、替えが効かない人材になっておくことはこの先の自分自身のキャリアにとってとても大切なことです。しかし、本当に「自分だけしかできない仕事」をしているという人は、世の中にどれだけ存在するのでしょうか。

 独創性の高い仕事をし、自らの能力で世の中を動かしている……そういう感じのビジネスパーソンに陽が当たるので、そういう人が多いと感じてしまうし、そうならなければならないと思ってしまいがちですが、現実にはそういう人はごく一握りです。残念ながら、ほとんどの人は「その他大勢」なのです。もうお分かりですね。そういう人たちの技術や知識は、別の人も習得できる。

 だからこそ、後からでも習得できる技術や知識で、先にスクリーニングして求人の門戸を狭めてしまうよりも、門戸は広くしておいて、教えられない資質を持っているかどうかを見ることを重要視する、結果としての「未経験者歓迎」という求人広告もある、ということなのです。単に、人が採れない採用困難企業だからハードルが低い、というわけではありません。

 エンジニア領域では「人が足りない」と現場は絶叫しています。しかし実は「エンジニアを採用します」と求人広告を出せば、もの凄い数の応募があり、その大量の応募の中から、人を「選んで採れる」状態です。採用の現場では「毎日大勢の人と面談をしなければならないので、忙しくてしょうがない」とボヤいている話を、頻繁に耳にします。

 ではその面談の場で、採用担当者たちは何を見ているのでしょう? ポイントは二つ。まず「コミュニケーション能力」です。手あかがついた言葉ですが、実際のビジネスの現場にいる人なら、この言葉の重要性が分かるはずです。コミュニケーション能力とは、上手く話せるとか、人を魅了できるということではありません。人の話を聞いて理解し、自分の意思を伝えられるか。その能力です。

企業は効率から採用を考えているという当たり前の話

 コミュニケーション能力は残念ながら教えることができません。トレーニングである程度は改善される可能性はありますが、技術や知識のように「後からでもドンドン追加できる」という力ではないようです。したがって、まずはこの能力がある程度備わっているのかどうか、それを判断します。もう一つは「意欲や姿勢」です。自ら行動するという意思が明確かどうか、ということ。

 技術や知識は後からでも身につけさせられる、といっても、トレーニングを受ける本人に意思や身につけるための姿勢がないと、暖簾に腕押し状態です。そして、自ら行動するという自発性や自律性もまた、トレーニングではなかなか身に付かない。少なくとも、採用した企業が導入研修程度で少しばかり指導したくらいでは、ほとんどなんともならないのです。

 もうお分かりですね。要は、後からでも教えられることと、教えられるかもしれないが効率の悪いこと、そういう視点で人材要件を整理して、企業は人を選考しているのです。こう書いてしまうと「しょせん、人当たりがいい、ということで決まってしまうのなら、技術や知識を身につけるなど馬鹿げているということか」と、お叱りの声が飛んできそうですが、それは少し違います。

 コミュニケーション能力や仕事に自ら取り組む姿勢は、身につけさせるために時間もかかるし、それに伴って費用もかかります。そして、そのコスト負担を、進んでしたいと思う企業は、当然のことながらあまりない。その割には「組織で働く」ためには、持っておくべき資質でもある。すべては企業サイドの効率の問題です。ただ、それは企業としては当然の姿勢でしょう。

 技術や知識が問われる仕事の場合「その人しかできない」ケースも多く、結果として高いギャランティを払ってでも、その人に依頼すれば良いというケースも増えています。そういう人たちは、組織で働くための資質よりも、持っているスキルが突出していることが重要です。同じ「仕事をする」といっても、求められるものが少し異なる。そこを多くの人は勘違いしがちなのです。

「未経験者歓迎」という求人から分かるのは、能力や経験の有無よりも、コミュニケーション能力や仕事に自ら取り組む姿勢が評価されるということ(写真はイメージです)

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