新幹線などに搭載される「医師支援用具」は使われない……かも杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)

» 2014年03月14日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 子供のころの私にとって「鉄道員」は、「医師」「弁護士」「警察官」と並ぶ憧れの職業だった。規則や法律を遵守し、頑固で厳しく、しかし、その中に滲(にじ)み出る優しさ。その姿は子供心に「仕事とは何か」「人生とは何か」をぼんやりと印象付けてくれた。

 1970〜1980年代のブルートレインブームのころ、鉄道雑誌で檀上完爾(だんじょう・かんじ)さんという作家が活躍していた。鉄道員に密着したルポの第一人者で、車掌さんが遭遇する事件、乗客とのふれあいなどの実話を取材されていて、その中でも車内での急病人の発生や出産などの事件は緊迫していた。車掌や駅員の機転で臨時停車、乗客が助かってめでたしめでたし……という話もあったように思う。

 当時の鉄道好き少年たちはこうしたエピソードを読み、鉄道員への憧れを強くした。その夢が叶って、いま、鉄道の現場で働く元鉄道少年も多いと思う。列車内で急病人が発生し、鉄道員が尽力し、乗り合わせた医師の緊急処置で命が救われる。いい話である。いまでもときどきニュースになる。美談だ。

 ただし、重要なことを忘れてはいけない。緊急処置が成功したから美談になった。しかし失敗すれば悲劇しか残らない。列車内で車掌の呼び出しに応じた医師は、成功と失敗の紙一重の状況に立たされる。しかも揺れる列車内、病院とはほど遠い環境の中で。

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