無償提供の「Office for iPad」、なぜ日本で使えなかったのか転換期にあるMicrosoftのビジネスモデルを知る(3/4 ページ)

» 2014年04月04日 13時21分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),Business Media 誠]

転換期にあるMicrosoftのビジネスモデル

 現在、Microsoftは戦略の大きな転換点にいる。これまでWindowsにしろOfficeにしろ、同社はこれまでソフトウェアのライセンスを「売り切りする」のスタイルで販売してきた。初期はパッケージ販売が主力だったと考えられるが、PC利用者が急増したWindows 95以降よりPCへのバンドルが同じく急成長し、OEMメーカー(PCメーカー)経由でライセンス料を徴収するスタイルがビジネスの根幹となった。

photo Word for iPad

 実際、PC市場が右肩上がりで成長し、ユーザーも次々と新製品や新バージョンのOfficeに買い換えているころは極めて有効に機能したこのビジネスモデルだが、近年は(機能に不満がないので)購入時のバージョンのままソフトウェアを使い続けるケースが増えた。さらにPC市場も成熟期に入った(横ばい、または微減していく)傾向を見せていることと連動し、ライセンスでの収入も減少しつつあることは想像に難くない。ゆえに、確実に収益を積み重ねられるサブスクリプション形式へと傾いたと考えるのが自然だ。

 Office 365の発表以降、同社がこのサブスクリプションサービスに顧客をなんとか誘導しようとさまざまな方策を打ち出していた。代表的なものの1つが、前述した個人向けの「Office 365 Home Premium」だ。最大5台分のライセンスを99.99ドル/年と年間1万円ほどという価格にて「一家に1つ」といった触れ込みでユーザーにアピールする。同時にパッケージ版の制限を厳しくし、相対的にOffice 365のお得感を高めようという施策も展開している。

 この施策とは「Microsoft Officeソフトウェアの再インストールと、PC間でのライセンス移行を禁止する」や「1ライセンスでインストールできる台数を制限する(例えば、Office for Macの2台→1台など)」などというもの。前者はかなり批判が寄せられたためか後日に撤回したが、ともあれサブスクリプション型へ誘導する意図が露骨に出すぎてしまい、図らずも社内的な方針転換が急ピッチで進んでいる印象を強く受けた。ただ、後日「5台ぶんもいらない(なので、もっと安く)」という本当の個人用途を想定した「Office 365 Personal」も登場するので、実際にサブスクリプション型もしだいに使いやすく、受け入れやすく整備されてくるのだろう。

 以上が最近のMicrosoftがOfficeを巡って展開するコンシューマー/単体ユーザー範囲での戦略の概要だ。一方、「日本市場向け」や企業向けとなると話が少し異なる。

Officeのライセンス条件「日本と諸外国で少し違いがある」事情

 Officeに関するライセンス条件は、日本と諸外国で若干の違いがある。

 米国など諸外国におけるOfficeのライセンスでは、実はコンシューマー向けエディションを業務では利用できない制約がある(別途ライセンス契約を結ぶ必要がある)。例えば、日本では提供されていない「Office Home and Student 2013」は、パッケージ版が139.99ドル(約1万4400円)と比較的安価だが、日本の(多くのメーカーPCへバンドルされる)「Office Home and Business 2013/Personal」と違い、仕事では使えない。(そんなのはばれなきゃいいじゃないかというはさておき)持ち帰った仕事を家のPCで──というのも原則は制限される。これはOffice 365も同様で、業務でOfficeを使う場合は「Small Business Premium」や「Midsize Business」などのSMBまたはエンタープライズ向けプランでの契約が必要となる。

 ところが日本は諸外国とは少し違う「市場に合わせた、特殊な処置」が取られている。日本でメーカー製PCを買うと、たいていMicrosoft Officeがバンドルされてくる(2014年4月現在、一部低価格志向のモデルはPersonal 2013の例もあるが、ほとんどはHome and Business 2013がバンドルされる)。この状況は日本のみである。個人向けPCへのOffice製品のバンドル率が高い、つまりほとんどのPC利用者が持っているので、上記諸外国のライセンスと違って「業務利用も可」とする特例が認められた感じだ。

 ただ、これでこと足りるということは、サブスクリプションサービスも現時点は不要ということになる。Office 365 Homeに該当するサービスが日本では提供されていない理由、そして、これら一連の諸事情がOffice for iPadの日本提供における何らかの制限になっている可能性があるといえる。

 マクロな視点では「Office for iPadのライセンスを受け入れる土壌が、まだない」ことに通じているかもしれない。もし日本法人の日本マイクロソフトがOffice for iPadを2014年中に日本市場へ導入しようとするなら、この高いバンドル率による安定収益を捨ててでもOffice 365 Home/Personalを推進する方針に変える必要があるだろう。

 企業ユーザーについては、WindowsもOfficeもボリュームライセンスで購入するケースも多い。このため、個人市場において上記のようなライセンス収入が下がる懸念も、「不況による企業投資の抑制」といった事態がない限りは深刻な売り上げ減にはならない。

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