まず念頭に置いておくべきことは、過去のWBCや五輪などの世界大会を振り返ってみても分かるように、キューバは野球の強豪国であるということだ。
1961年にキューバ政府はプロスポーツ制度を廃止し、キューバ国内リーグ「セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボル」を設立。「国家公務員」としてチームで働く選手の平均給料は日本円換算で月額2000円となる。参考までにキューバ国内における一般的なサラリーマンの平均初任給は月1000円程度と言われている。そもそも社会主義国だから物価のシステムが違うので、この額をもって自由主義圏の給料と単純に比較できないものの、選手たちはキューバ国内において一般の人より優遇された給料で働いている存在だと考えていいだろう。
それでも代表チームでプレイするような主力選手の中には「他国でプレイしたい」という思いを抱く者も多い。ちなみに今回の解禁前に2002年6月から2004年まで「キューバの至宝」と呼ばれたオマール・リナレス内野手が日本の中日ドラゴンズでプレイしたことはあった。ただ、これはあくまでも政府から「我々は社会主義国なので年俸はできるだけ低く抑え(年俸は約600万円)、中日球団がキューバ国内の球場のラバーフェンス設置費用を受け持つならば」という条件が付けられた特例であり、しかもプレーヤーとして全盛期をとうに過ぎた上での、事実上の「レンタル」であった。
今回の解禁によって、年俸の20%をキューバ政府側に支払わなければならないという制約はあるものの、選手の能力次第では高額な契約も可能になり、国の承認を得て「堂々」と海外で活動できることになった。キューバの主力選手たちにとって、この上ない朗報であろう。
だが、メジャーリーグでプレイしたいと思う場合は別。今回の解禁後も「堂々」とはいかない。国を捨て亡命するしか道はないからだ。亡命で失敗すれば拘束されるだけでなく、下手をすると命の危険もともなう。成功したとしても、当たり前だがキューバへの帰国が許されず、家族と会えなくなるなど、失うものも大きい。そういうリスクがあっても、それを承知の上で「世界最高峰のメジャーリーグでプレイし、成功をつかんで大金を手にしたい」と夢見るキューバのプレーヤーは昔から後を絶たない。人気者の大物選手が亡命して“敵国”のメジャーリーグでプレイするようになるたびに、キューバ政府は代表チームの戦力が低下、ひいてはキューバ国内における権力の失墜を招くとして再三に渡って頭を痛めていたが、今回の海外でのプロ活動解禁によってこの流れに歯止めがかかると踏んでいる。
選手が海外での活動を熱望したとしても、リスクの高い亡命を強行することなく、セペダ選手のように母国を捨て去らないで「堂々」と大金を手に、異国の地でプロプレーヤーとして活躍できるようになったことは確かに画期的だ。わざわざ危ない橋を渡らないほうがいいと思う選手が今後増えるであろうから、米メジャーリーグへの人材流出も防げるというのがキューバ政府側の算段だ。
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