菅野: 東京オリンピック招致のときの、太田雄貴選手のプレゼンテーション用映像作品ですね。
――あ、フェンシングの太田選手。
菅野: そうです。あれはスポーツの持つ課題の解決……フェンシングの課題を、テクノロジーとクリエーティブで解決をする、というテーマの仕事でした。
フェンシングって、ヨーロッパでは非常に歴史が古く、世界的に有名な競技ですが、日本では競技人口も少ないし、観戦するのが好きだという人も少ないですよね。太田選手から「フェンシングをもっと普及させたい。たくさんの人に見てもらいたい」という依頼があって、フェンシングの課題を解決するために取り組みがスタートしました。
――フェンシングの課題というと?
菅野: フェンシングの剣って細すぎて、しかもものすごい速さで動くので、普通の人にはちゃんと見えないんですよね。そもそも選手の動きが速すぎて、何が起こっているのか分からない。国際的な大会だとピストが光るとかの工夫もなされているのに、試合をジーッと見ていても、どっちが勝ったのか選手がガッツポーズするまでまず分からない。
――ガッツポーズ、確かに(笑)。
菅野: 競技に詳しくない普通の人でも、何が起こっているのか理解できて楽しめるようにしよう……ということで、まず、選手の体と剣先をモーションキャプチャーカメラで撮影することでデータを取りました。
――モーションキャプチャー。つまり、選手の体の「動き」をデータ化したんですね。
菅野: そうです。そのデータを剣先が動いた軌跡が、光の線のように見えるように描画します。また、それとは別に、モーションコントロールカメラを使って、試合をしている選手の様子をハイスピードの実写で撮ります。
更に、剣が相手のユニフォームに刺さったかどうかの判定は、フェンシング独自の判定機のデータを引っ張ってきて解析、視覚化しています。このデータから剣先がヒットしたときは、光が飛び散るようなエフェクトも付けて表現しました。
これらのデータや動画をすべて重ねて1つの動画にしました。ハイスピードで撮影された実写動画の上に剣先の動きのデータからつくった軌跡のCGを重ね合わせることで、分かりやすく見せているのです。こうすることで、フェンシングのルールを知らない観客でも、試合を理解して楽しむことができる。フェンシングの課題をテクノロジーで解決し、見てきれい、楽しいものになるよう工夫する。それが、この作品の目的です。
――こうしてできた作品が、あのオリンピック東京招致の時の太田選手のプレゼンに使われたのですね。
菅野: はい。IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は元フェンシングの選手で、非常に分かりやすく伝わる映像だと大絶賛してくれたそうです。
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