アイルトン・セナ、フェンシング、Perfume――電通・菅野薫氏に聞く、「広告×データ」の可能性広告×ビッグデータ(1/5 ページ)

» 2014年05月07日 11時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において、優れた作品を表彰、公開する文化庁メディア芸術祭。2013年の第17回文化庁メディア芸術祭でエンターテインメント部門の大賞に選ばれた作品が「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」だ。

 アイルトン・セナが1989年のF1日本グランプリ予選で樹立した世界最速ラップ。ホンダが残していたこの時の走行データをもとに、セナの走りを光と音でよみがえらせたという作品である。

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「Sound of Honda-Ayrton Senna 1989」
電通クリエーティブ・テクノロジスト菅野薫氏

 この作品を手がけたのが、電通のクリエーティブ・テクノロジストである菅野薫(すがの・かおる)さん。菅野さんは他にも、本田技研工業(ホンダ)のカーナビ「インターナビ」の走行データから震災後の通行実績を可視化した「CONNECTING LIFELINES」、東京オリンピックの招致プレゼンで使われた、フェンシング・太田雄貴選手のフォームと剣先の動きの視覚化した映像作品、カンヌ・ライオンズで行われた電通セミナーでのPerfumeのパフォーマンスなど「データ」をベースにしたプロジェクトに携わっていることが多い。なぜデータに立脚した作品を生み出しているのか、「広告×データ」の可能性とは……菅野さんに聞いた。(以下、敬称略)

CONNECTING LIFELINES(2011年〜)

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「CONNECTING LIFELINES」

――私が初めて見た菅野さんの作品が、CONNECTING LIFELINESでした。東日本大震災が起きた年の東京モーターショーだったと思うのですが、震災が起きた後、被災地ではたくさんの道が通れなくなりましたよね。あのときに、車が走ったところが可視化できれば、その道が通れるかどうかが分かるというのが、すごく人の役にも立つし、しかも美しいなと強く印象に残っていたんです。これは、ホンダのカーナビ「インターナビ」の走行データを視覚化したものなんですよね?

菅野: そうです。インターナビの走行データは、インターナビ搭載車から集めている、リアルタイムの緯度経度の位置情報や、どの方向に向かって走っているのか、という情報で構成されていて、それをビジュアライズしています。

――生のデータだと、ただの数字の羅列にしか見えませんが……。

菅野: そうなんです。インターナビの素晴らしさって、丁寧に説明するとすごく長くなるくらい難解。僕が担当した一番最初の段階では、「むしろこのデータを緯度経度の位置情報を時系列に読み解いて、インターナビを搭載したクルマだけでできた日本みたいにビジュアライズをした方が直感的に伝わるのでは?」などと、ホンダのインターナビの開発チームのみなさんとディスカッションしていました。「もし、夜、ホンダの車しかこの世になかったとしたら?」というのを表現しようと、赤い光(の点)はブレーキランプに見立てて遠ざかっていく車を、白い光(の点)はヘッドライトに見立てて近づいてくる車を表現してみたり、試したりしていました。この段階でつくったデモは実際に世の中に出してはいませんが、そういったホンダのエンジニアチームのみなさんとの継続的なディスカッションをして一緒につくろうという関係や姿勢が土台になっています。

――もともとのインターナビのデータというのは「車がここを走っている」という情報ですよね。車がたくさん走っていれば、つまり道が混んでいれば、光の点がたくさんある。走っている車が少ないところは点がなくなる。

菅野: そう、インターナビの集める走行データは、本来は渋滞を発見し、それを避けるために集められ、解析されています。でもその全く同じデータが、震災後には「前に通った車がいるってことは、この道は通れる可能性がある」という意味になることを発見し、解析しなおして配布しました。そしてそれが被災地の人の役に立った……そのデータを我々が可視化しました。そういう、ホンダの柔軟な発想と姿勢をより多くのひとに届けるのが目的です。

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