SBIホールディングスの北尾社長に聞く、「働く」とは何か?働くこと、生きること(前編)(1/3 ページ)

» 2014年05月15日 00時00分 公開
[印南敦史,Business Media 誠]

働くこと、生きること:

 終身雇用が崩壊し、安定した生活を求め公務員、専業主婦を目指す人が一定数いる一方、東日本大震災などを経て、働き方や仕事に対する考えを大きく変えた人は多く、実際に働き方を変えた人も増えている。仕事一辺倒から、家族とのかかわり方を見直す人も多くなっている。

 さまざまな職場環境に生きる人々を、多数のインタビュー経験を持つ印南敦史が独自の視点からインタビュー。仕事と家族を中心としたそれぞれの言葉のなかから、働くとは、生きるとは何かを、働くことの価値、そして生きる意味を見出す。

 この連載『働くこと、生きること』は、2014年にあさ出版より書籍化を予定しています。


北尾吉孝氏

 1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年、ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年、野村企業情報取締役。92年、野村證券事業法人三部長。95年、孫正義氏の招へいによりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在は、証券・銀行・保険などのインターネット金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、バイオ関連事業など幅広く展開している金融を中心とした総合企業グループのSBIホールディングス代表取締役執行役員社長。公益財団法人SBI子ども希望財団理事及びSBI大学院大学の学長も務める。


SBIホールディングスの北尾吉孝社長

 そのたたずまいから感じるのは、真の実業家としての威厳だ。しかし、それは威圧感ではない。自身の存在を寡黙に訴えかけ、同時に目の前の相手を受け入れ、その本質を瞬時に見極める。インターネット総合金融グループであるSBIホールディングスの社長である北尾吉孝さんには、そんな不思議な印象がある。

 「家は両親と兄貴と私の、普通の四人家族。父方の先祖は代々の商家で、親父は小さな会社を経営していました。教育について親父はよく『天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず』(天罰を逃れることは決してできないという意)といった中国古典にある言葉を使い、道徳を子どもたちに教えていましたね。

 でも『働く』ということについてなにかを強制したことはなかった。これは『やりたいように生きればいい』という親父の姿勢だったと思います。その一方で一生懸命になって働く親父の姿から、何かを教えられてきたとも思います」

 北尾さんは実業家だが、意外なことに少年時代の興味は別な方向に向いていたのだという。

 「小さいときから、お医者さんになろうと思っていたんです。そして分子生物学に興味を持った高校時代には、その分野のパイオニア的存在だった慶應義塾大学の渡辺格教授の門下で研究したいと思っていました。しかし実力がなかったので、医学部には落ちてしまい、慶應義塾大学の経済学部に進学しました。

 親父の言葉で深く心に残っているのは、医学部に落ちて新幹線で戻ってきたときのことです。親父が新大阪駅まで迎えに来てくれたとき、『人の命は棺蓋(かんおお)うて後に定む(人の真価は棺に入って初めて定まる)』と言ったんです。大学に落ちようが落ちまいがそれは天命で、気にする必要もない。自分の道を歩めということです。親父のその言葉は、私のひとつの大きな指針になりましたね」

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