私のようにIT業界にいる人たちにとって、AR(Augmented Reality)という言葉を聞いてどう思うだろう? ARが出始めた頃の、あのワクワク感は忘れられない。その代表選手はセカイカメラ(※1)だと思うが、2014年1月に開発終了した話は記憶に新しい。
ARは驚きとワクワクは与えてくれたけれども、実生活への浸透はなかなか難しいように思えた。Google Glassのようなウェアラブルデバイスの登場によって、その思想は今後も受け継がれるとは思うものの、なかなか日常に入り込めない技術という印象が個人的にはあった。
そんななかで出てきたのが、このtricotの新曲プロモーションだった。ARイコールその名の通り現実社会を拡張するという使い方がほとんどだが、確かにこのように曲を再生するというアイディアは頭になかった。ARはあくまでカセットテープを再生するという動きだけにフォーカスし、本質は期間限定で新曲を聴くことができるというプロモーション手法に、なるほどなぁと関心してしまった。固定概念に縛られていると出てこないアイディアだ。
CDが売れなくなったというのは誰もが聞いたことのある話だろう。違法コピーがその理由とされたり、あるいは音楽配信が悪いとされたり――。いずれにしても、CDを中心に考えたとき、ITと音楽業界は必ずしも良い関係ではなかったように思う。ITは音楽業界にとって古き良き時代をただ破壊する存在だったのかもしれない。今後の音楽ビジネスを考えると音楽業界自体は現在も模索中なのかもしれないが、今回のtricotのプロモーション1つをとっても、音楽とITはもっと親和性を深められると感じている。tricotのようにメジャー契約しなくとも、その音楽は海を越えて世界を目指せるインフラがすでに整っているのだ。
ソーシャルメディアや各種クラウドサービスを利用すれば、メジャーレーベルに頼らなくても自らの力で世界に数多くのファンを獲得できる可能性は充分にある。そこからどう音楽ビジネスに変えて行くかが課題だが、少なくともマスの力を借りずとも音楽を届けられる環境が整っていることは大きなポイントだ。
tricotに限らず、今も昔もインディーズには素晴らしいバンドやミュージシャンがたくさんいて、その可能性を広げるためにITの力が発揮できる余地はふんだんに残されている。私の知人にも音楽業界の人と親密になり、その手助けをしている人は少なくない。たとえ昔と比べてCDが売れなくなってしまったとしても、音楽を欲する人たちは必ずしもいるわけで、それは今後も変わらないだろう。
これからの数年が音楽ビジネス転換期になるのではないだろうか。ITとのコラボレーションによる新しい音楽の広め方に期待したい。(高畑哲平)
※この記事は、誠ブログのARを使ったtricotの新曲プロモーションで新たな可能性が見えたより転載、編集しています。
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