ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」――今、人工知能で人の感情はどこまで分かるのか?短期集中連載「人工知能と生きる」第1回(3/3 ページ)

» 2014年07月15日 07時00分 公開
[工藤友資,Business Media 誠]
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Pepperの生い立ち

 この「Pepper」の技術を支えるのは、フランスにあるロボットベンチャー「アルデバラン」だ。ソフトバンクは2012年にアルデバラン社の株式を約80%取得しており、グループ企業にしていた。この買収は、アルデバランの「Nao」というロボットと、それを支える「NAOqi OS」というシステムの完成度を買ったためだろう。

 アルデバランは、2005年にブルーノ・マイソニア氏が設立したもので、自律型ヒューマノイド・ロボット「Nao」の開発を行ってきた。Naoは二足歩行の人型ロボットで、2008年にはロボカップサッカー(ロボットによるワールドカップのようなもの)で採用された。Naoは現在、大学や各種研究機関において研究目的で利用されているという。そのNaoで培われた技術がPepperに生かされているのだ。

photo アルデバランが開発した二足歩行ロボット「NAO」(出典:アルデバラン)

 ちなみにNaoと異なり、Pepperが二足歩行でないのはバッテリー駆動時間を延ばすためと孫氏が述べている。研究段階では二足歩行のプランもあったようだが、これは賢い選択だ。日本は比較的狭い家が多い上に、障害物も多い。ケーブルなどに引っかかって、転倒するといったケースも考えられる。

 Pepperの価格は約20万円(税抜19万8000円の予定)だ。少し高価なPC程度の値段だが、ロボットとしては驚きの安さである。玩具向け、開発者向けのロボットも価格はさまざまで、安いものなら1万円未満からあるが、高機能なものとなれば20万円程度はする。これをホビー向け、研究向けでなく、家庭用にまで昇華させた商品を20万円で購入できるようにした点は、素直にソフトバンクを評価したい。

Pepper投入の狙いとは?

 確かにPepperの技術は先進的だが、iPhoneやiPadのようにユーザーのライフスタイルを革新的に変化させる商品とはまだ思えない。アプリによって次々と機能を追加できるiPhoneはケータイの概念を変えた商品だろう。一方、Pepperはどういった利益をわれわれに提供してくれるのか想像がつかないのが現状だ。

 では、ソフトバンクはなぜPepperの開発と発売に踏み切ったのか。2010年6月25日、ソフトバンクは2040年までの会社の方向性を定めた「新30年ビジョン」を公開したが、その中にはっきりと“知的ロボットとの共存”と記している。今回発表されたPepperは、まさにそのビジョンにふさわしい製品だ。筆者としても非常に好感を持った。ビジネス面の狙いは当然あるはずだが、社会に貢献するといった意味合いが強く見て取れる。

photo ソフトバンクは「新30年ビジョン」で“知的ロボットと共存”する世界を実現すると宣言している

 Pepper初披露の場で、孫社長は「今日はもしかしたら、100年後、200年後、300年後の人々が、あの日が歴史的な日だったと記憶する日になるかもしれません」と述べた。人型ロボットと人間の共存、というのはSFやマンガなどでしばしば取り上げられる課題だ。手塚治虫の漫画『火の鳥』には、人間の感情を持った家事ロボット「ロビタ」が登場したが、ロボットを道具としか思わない人々にとって不快な存在であったことも描写されている。

 果たしてPepperは人々に受け入れられる存在になるのか。その意味でも、今回のPepperの“知能”がどのように仕上がるかは注目すべき点だ。お笑いでおなじみの吉本興業が設立した「よしもとロボット研究所」もPepperのキャラクター作りに協力しているが、親しみやすいキャラクターを目指して、男の子の設定にしたという経緯もある。

 2014年9月には開発者向けの先行販売や、開発ツールの配布も予定されている。Pepperの発表会や実機を見た限りでは“彼”はまだ完成していないように思えた。多くの人の協力を得て、Pepperが人と共存できるロボットに進化することを願うばかりだ。


 次回は身近な人工知能の例として、アップルのiPhoneやiPadに搭載されているパーソナルアシスタント「Siri」を取り上げる。Siriの“スゴさ”を支える技術や、その出自に迫っていく予定だ。

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