ところが、経済が低成長期になって人々が高齢化に向かうと、将来に不安を抱く人々は消費に慎重になる。さらに当面の生活が何とかなる場合、収入から貯蓄に回す割合を可能な限り増やしていく。着実に市場縮小に向かっていた当時の公共事業に関わる建設業の親方は、業態変換や廃業を念頭に置いて自らの取り分を増やし、内部留保に励んだ。
また、中高年になってきた建設・運輸業の労働者は「いつまでも働けるわけじゃない」と将来のために貯蓄の割合を増やすだろうし、それは他の業種も同様だろう。こうして日本の公共事業投資の乗数効果はどんどん下がり、政府の借金が膨れ上がる一方で、公共事業のカンフル効果は情けないほど失われてしまった。
こうした状況は以前、自民党が世間の支持を失い下野する主因の1つになったので、覚えている人もいるだろう。とはいえ現在も、当面の景気が回復したところで、建設関連業界の人々が将来に不安を抱く構造は変わっていない。乗数効果が低いままなのは当たり前と言える。つまり公共事業投資は、たとえ工事が着実に進んだとしても、今の日本では景気の持続的拡大にそれほど効果的とは言えないのだ。
さらに問題なのが、その公共工事の進ちょくが遅れ気味で、原燃料高と人手不足からくる費用高騰により入札不調を繰り返していることである。そのたびに見積費用が上積みされて少しずつ工事が実施されるが、当初の計画に比べて格段にペースが遅れ、しかも総額がどんどん高くなっている。
結果として地方と国家財政への負担(つまり次世代への負担)が膨れ上がりながら、喫緊に必要なインフラ再整備や補修は大いに遅れ、社会としての生産性改善にもなかなか結びついていないのだ。私は以前からこの点について指摘してきたが、残念ながらその危惧の通りになりつつある(参考記事:今の日本は「人員不足」時代――人材使い捨てと単なる安売りはもう通用しない)。
つまり、アベノミクス第二の矢、公共事業投資は景気拡大を誘導する効果にもともと疑問があるばかりでなく、実際の進ちょくも遅れているため、政府が主張するほど景気拡大に役立っていないのだ。膨張する財政負担を次世代に先送りする側面を直視するならば、その費用対効果は正当化できない水準にまで低下していると言っても過言ではない。
それに加え、公共事業投資が引き起こした建設業での人手不足は、隣接業界である物流業界をはじめとして、同様に体力を要求される飲食・小売業界などにどんどん波及している。そのせいで、出店などの事業計画を見直すことを余儀なくされる民間企業が続出しており、これはある意味、新しい「クラウディングアウト効果」と言える。
クラウディングアウト効果はもともと、政府支出の増加が利子率を上昇させて、民間の投資を減少させてしまう現象を指す。しかし、現在の利子率はむしろ低下気味なのに、人手という希少な資源を取り合う格好で民間国内投資を抑制する効果となってしまった。これも一種の「クラウディングアウト」と言えるだろう。
政府は、2014年4月に行った消費増税後における景気の足踏み状態を解消するため、そして、2015年10月に行われる消費増税の際の景気下支えのために、一層の公共投資を画策しているとの話もある。しかしこれは見当違いも甚だしい政策です。これ以上、民間投資を抑制するクラウディングアウト効果を強めてはならない。
政府がこの分野ですべきこと、できることは以下の3つだけだ。
先の2つは政府が民間の足を引っ張らないように政策を修正することであり、最後の項目がいわゆる第三の矢(=成長戦略)の本筋だと考えている。(日沖博道)
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