この問題の恐ろしい点は「能力が獲得できなかった人は、労働市場から退場してもらう」というルールが、適用できないことです。前述したように、多くの人はなるだけ長く働きたいと思っています。そして、高齢であることによる体力的な不安も、以前と比較して少なくなっています。
労働力も不足しがちになるという市場構造から見ても、それこそ、企業サイドが「猫の手も借りたい」という状況になれば、それほど能力がなくても、仕事を得ることができるでしょう。
しかし、そのバランスが崩れたときに、働きたいけれども能力を向上させる経験を積んでこなかった人たちから順番に、仕事を失ってきます。先に示したデータのように、以前よりも役職者になるのが難しい時代です。これからそれが反転して、誰でもが以前のような年功序列的な出世ができるようにはならないでしょう。
次のグラフを見れば、今のシニア世代についてはそれほど大きな問題ではないと考えてもいいかもしれません。要は、ある程度は備えがあるから、なんとかなるかもしれないと、本人たちも考えているのですから。
けれども、これからシニアになる世代をみれば、一目瞭然です。圧倒的に不安に思っている。しかし、ずっと働き続けるために必要な能力を身につけられるかどうかは分からない。厳しい話なので、書くことをためらってしまいますが、多様な働き方が提示され、自分らしく働くことを模索してきた結果、最終的に「仕事は生活のため、食うために働くのです」という、本人たちも思いもよらなかった結果が待っている可能性も大きいのです。
歳をとれば働かなくても公的扶助がある、という幻想がなくなっているにもかかわらず、長く働き続けるためにどうすればいいのか、という指針は示されないままです。この部分の議論が国レベルで深まることを、私は今回の選挙で大きく期待しています。ここからは企業、そして、個人レベルでできることがあるのかを、最後に少しだけ提示してみたいと思います。
まず企業ですが、正直なところ「それどころではない」という感想を漏らすはずです。さまざまな競争にさらされているのだから、すべての人を支援して、一定のレベルになるまで育成して、彼らのキャリアに責任を持つことなどできないでしょう。だからすべてを放棄していい、という話では決してないのですが、できることは少ない。
ただ、逆にいうと「こういう状況だからこそ、ビジネスチャンスはたくさんある」と判断する企業が増えてくることに期待したいところです。例えば、組織でポジションを就くことによって経験し、それによって獲得していた能力を、もっと別の方法で個人に備えさせるサービスを提供するという企業が現れてもいいでしょう。
この状況を危機と認識し、それを解決するさまざまなアイデアから、多くのビジネスが生み出されることが、超高齢化社会において企業ができることかもしれないと、私は思っています。
もう一つは、シニア問題に対応するためのシミュレーションをしておくことです。現在40歳前後の団塊ジュニア世代がシニアと呼ばれるようになるまで、あと10〜20年です。そうなってからのタイミングで「どのような制度で迎え入れるのか(もしくは留め置くのか)」そして「何をしてもらうのか」さらには「どういうモチベーションなら能力を発揮できるのか」などを付け焼き刃で検討するのは無理でしょう。この過渡期のタイミングで、思いつく施策を次々とトライしておくと、後できっと役立つはずです。
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