「ほら、どれかひとつは思い当たるでしょ、みなさんもヒトラー安倍に操られる群衆にならないよう気をつけましょうね」という結論へもっていきたい制作サイドのあまりの露骨さもさることながら、なによりも驚いたのは、これらがあまりに美しい曲線を描いて、赤坂のTBSへ舞い戻ってくる“ブーメラン”になってしまっている点だ。
実はル・ボンの説いた「群衆を操作する方法」というのを、現代において忠実に実践しているのは、安倍さんでも自民党でもない。「テレビ」なのだ。
件の番組はヒトラーのことを「反復」や「断言」を用いた演説で群衆を操作したと紹介し、スタジオの出演者たちも「ヒトラーは大衆蔑視をしていた」なんてうれしそうに語り合っていたが、これでは視聴者に誤解を与えてしまう。
ル・ボンの『群衆心理』の後、第一次大戦中に英国のウィルフレッド・トロッターという心理学者がル・ボンの考えをさらにエスカレートさせて、大衆というのは理性のないアホだから、ひとまとめに管理すべきという『群衆の本能』なる本を出した。これを受けて各国はこの「管理方法」を競って研究し始め、なかでも頭ひとつ飛び出したのが米国で、ヒトラーがまだ一兵卒で野戦病院に担ぎ込まれていた1917年ごろ、トロッター理論をベースにしたプロパガンダ(情報操作)機関「クリール委員会」(正式名称・米国広報委員会)をつくっている。
つまり、当時の欧米列強の指導者層というのは、ご多分にもれず大衆蔑視をしており、「反復」やら「断言」で国民をコントロールして戦争へ動員するのが当たり前だったというわけだ。とにかく「ヒトラー安倍」にもっていきたいという番組構成上の都合だろうが、戦争における“負の側面”をなんでもかんでもヒトラーに押し付けてはいけない。
もちろん、この流れは戦後も脈々と続く。なかでも、ル・ボンの系譜である米国は、日本という壮大な実験場所を手にしたことで、メディアを使ってさらにダイナミックな群衆の操作を始める。
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