なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?窪田順生の時事日想(2/4 ページ)

» 2015年01月27日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

ユニークな飲み方が普及した理由

サントリーオールドのキャッチコピー「十年まえは熱燗で一杯やったものですが……」(出典:サントリー)

 では、なぜこういうユニークな飲み方がここまで普及したのか。一般的には、日本人は欧米人に比べてアルコールが弱いから長く楽しめるようにしたのではなんて解説されているが、それは後付けであって、実は1970年代にメーカー側が仕掛けた一大プロモーションによって生み出されたのだ。

 それまでの国産ウイスキーメーカーはかなり苦戦を強いられていた。欧米のようなパブやバー文化もないことに加え、なによりも日本人の晩酌といえば日本酒かビールと相場が決まっていた。寿司屋でも、小料理屋でも、赤提灯も同様だった。

 生き残るためには、この“晩酌市場”に参入しなくてはいけない。そこで国産ウイスキーメーカーが考え出したのが、「水割り」である。水で薄めてピート臭を抑えることで、口当たりをマイルドにして和食にも合うということを猛アピールしたのだ。

 その代表が、サントリーの「二本箸作戦」である。「箸」が置かれている和食店や、家庭にもウイスキーをという一大プロモーションで、当時本社が置かれていた日本橋の名にひっかけたことからも、社運をかけたビックプロジェクトだったことがうかがえる。

 事実、そのイケイケぶりは昨今のプロモーションと比較しても見劣りしない。1970年には、割烹の大将が店を終えた後で、カウンターで「サントリーオールド」を傾ける写真とともに、「十年まえは熱燗で一杯やったものですが……」なんてシャレたキャッチコピーが付いたサントリーオールドの新聞広告が世間の話題をさらった。

 また、湯豆腐をつまみにサントリーオールドのお湯割り、なんてこじゃれた組み合わせを提案したスタイルブック『懐石サントリー』(淡交社)を発行。この「和食にオールド」キャンペーンの効果は覿面(てきめん)で、70年代前半には100万ケース前後で推移していたものが、5倍に跳ね上がり、1980年にはなんと1240万ケースという当時の世界一という販売記録を叩き出したのである。

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