軽自動車の世界で、地殻変動が続いている。自動車の販売に関して言えば、ここ数年日本での新車販売台数の4割を軽自動車が占め、自動車市場全体で続くダウンサイジングの流れの最終的受け皿となってきた。
なぜ軽自動車はこれほど売れるのか。大きな理由の一つは、消費者のマインドの変化だ。雇用形態が変化し、多くの人の可処分所得が限られる中、バブル期までのように「社会人になったら年々給料がベースアップするから、高額ローンを組んでも大丈夫」とバラ色の未来展望を描ける人は減ってきた。高額なクルマを買って重いローンなど組まない、手頃な価格のクルマで堅実的な予算を立てる傾向が強まった――背景にはこうした日本人の変化がある。
一方、環境への配慮という観点から、小型化、小排気量化の流れが強まっている。以前ならアコードなどのDセグメントに乗っていた人がフィットなどのBセグメントへ移行するというダウンサイジングの流れがこの10年ほど加速を続けている(セグメントについては過去コラムを参照)。「大きくて燃費が悪いクルマに乗るのはかっこ悪い、時代遅れ感だ」そういう価値観が普通になりつつある。
ちなみにダウンサイジングは現在の自動車界において非常に重要なキーワードであり、2つの意味がある。1つはユーザーが大きなクルマから小さなクルマへクラスを下げて乗り換えること(前述)。もう1つは、例えばモデルチェンジの際にボディを小さくしたり、エンジンを小排気量にすることだ。
もともと消費者の経済観念が緊縮的になっているところへ、環境的正義が加われば状況が加速するのは目に見えている。内心「ダウンサイズしようかな」と考えても、安価なクルマに乗り換えるのは体裁が悪い、と感じる人もやはり一定数いる。しかし、「環境」というエクスキューズがあれば、無理して大きなクルマを買う必要はなくなる。
そんなわけで、かつて普通のサラリーマンがローンを組んで頑張って買い支えたことでマーケットの中心にいたアコードなどのDセグメントと、若いサラリーマンを同様に上顧客にしていたシビックなどのCセグメントは空洞化が進み、現在新車販売の中心は、Bセグメントと軽自動車に集中しつつある。
こうした状況下、Bセグメントに対する自動車メーカーの戦略は2つの方向性に割れた。日産と三菱は低価格なアジア戦略車を国内で販売して価格の安さで訴求することに。トヨタ、ホンダ、マツダはそれぞれ高付加価値のクルマを用意して、できる限り安物に見えない工夫を凝らし、ダウンサイジング移行組に不満を持たせない小型車、という方向を目指した。
それでは、Bセグメントの小型車 VS 軽自動車の戦いは、今後どういう流れになっていくのだろう?
そもそも軽自動車は、衝突安全試験を事実上免除されていた時代があり、それが問題視されて徐々に普通車に近い試験を課せられるようになった。クルマの安全性はボディサイズに依存する部分が少なくないので、衝突安全基準が引き上げられるたびにボディサイズの制限は緩和されてきたという歴史がある。特に1990年代の半ばからは、車体の拡大に応じて増えた重量に動力性能を釣り合わせるべく、排気量が拡大された。これらの規制緩和によって、軽自動車は十分に実用的な車内空間と、現実的な動力性能を手に入れた。
ターニングポイントになったのは、スズキの「ワゴンR」だ。このヒットが軽自動車の需要構造を一変させた。2000年代の半ばになると、さらに車内空間を拡大したモデルが登場する。ダイハツの「タント」だ。そこから10年の間に軽自動車マーケットはあれよあれよと言う間に自動車全体の4割を占めるところまで拡大していったのだ。
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