昨年スズキはSUVスタイルの軽自動車「ハスラー」をリリースした。ダイハツはオープンの軽スポーツカー「コペン」を12年ぶりにフルモデルチェンジした(参考記事)。続く2015年、ダイハツが遊び道具が満載できる巨大空間モデル「ウェイク」を発売、ホンダはかつての「ビート」を思わせるミッドシップの2座オープンモデル「S660」の発売を間近にしている(参考記事)。さらにスズキは、先行して発売していた「アルト」にターボエンジンを搭載して走りに特化した「スズキ・アルト・ターボRS」を追加した。
これらのモデルに共通するのは、どれも安価な実用車ではないということ。それどころか、Bセグメントの普通車より値段が高い。100万円以上は当たり前、特にS660は200万円という噂が流れているほどだ。
もう一つ共通しているのは、いずれもクルマのテーマを「遊び」に置いていること。ハスラーはアウトドア志向だし、ウェイクはサマースポーツやウィンタースポーツのためのギアを満載できるイメージを強調している。コペンとS660、そしてアルトRSはそれぞれ微妙に立ち位置を変えながらも、モチーフは「スポーツカー」で共通している。
税金面での有利さがなくなっても「このクルマが欲しい!」と思われるクルマ、選ばれるクルマを作らないと生き残れない――自動車メーカーはそう判断しているように思う。前述の5台は「軽自動車の中でどれが良いか」という視点で選ばれるクルマではない。「そのクルマにしかない何か」で選ばれるクルマだ。高付加価値であることこそが存在理由となっている。
振り返れば、1980年代の軽自動車は普通車へステップアップする過程での“通過点”であり、経済的な事情が許せばわざわざ選ばないクルマだった。1990年代以降の流れは、維持費も含めたトータルで買い得感があったのは前に記した通りだが、2015年、軽自動車税の引き上げによって、徐々に軽自動車は本質で勝負する形に変わりつつある。ただ「広い」とか「安い」というだけでは勝負できない状況はすでに数年前から始まっていた。今回の軽自動車税引き上げがきっかけとなって、軽自動車は個性化の時代に入ったように思えるのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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