KADOKAWAが「復刻版 戦中戦後時刻表」を“再復刻” ただし販売は未定杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2015年04月10日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

ただの再販売ではない「再復刻」の価値

 ketsujitsuは「出版社が小ロットの再発行を可能にする」というビジネスモデルとしても興味深い。実際、「復刻版 戦中戦後時刻表」は、従来の出版社のビジネスでは通用しない商品になっている。

付録として「満州支那汽車時間表(昭和17年)」「朝鮮鉄道時間表(昭和19年)」がついている。「満州……」は「あじあ号」の時刻が掲載されている。「朝鮮……」は戦時体制で、鉄道の撮影や描写の注意が記載されているとのこと(出典:ketsujitsu) 付録として「満州支那汽車時間表(昭和17年)」「朝鮮鉄道時間表(昭和19年)」がついている。「満州……」は「あじあ号」の時刻が掲載されている。「朝鮮……」は戦時体制で、鉄道の撮影や描写の注意が記載されているとのこと(出典:ketsujitsu)

 初版は1000セットが制作されて完売とのことだった。これは定価と損益分岐点を考慮した最小ロットだろう。仮に書店の粗利が2割、取り次ぎ店の粗利が1割とすれば、出版社の売り上げは7割で2520万円。完売すれば成功だけど、売れなければ在庫リスクになる。それでも初刊行の1999年は1000セットの制作で損益分岐点クリアの見込みが立った。戦中戦後の時刻表を懐かしいと思う人々がいたからだ。

 それから15年が経ち、戦後70年となった今、戦中戦後の日本と満州鉄道の時刻表を懐かしむ人は少ない。ここがJTBパブリッシングが展開する電子書籍版の時刻表との違いだ。JTBパブリッシング版は鉄道開業時と1958年版のほかは新幹線開業以降が多い。当時を懐かしむ人が存在し、票が読める状況だ。価格も1000円台で手ごろである。

 しかし、「復刻版 戦中戦後時刻表」に関心があるとすれば、鉄道ファンのうち、時刻表が好きで、なおかつ、歴史に興味を持ち、資料的価値を見いだせる人に限られる。私のような鉄道分野のライター、鉄道や歴史の研究家などだろう。大学図書館に置くべき本とも言える。

 こうなると再刊しようにも票が読めない。でも、事前に希望者を募るクラウドファンディング的な手法なら、最低限の損益分岐点を設定し、過去の優良コンテンツを使ってビジネスができる。広告費を使って商品をバラ撒いて、という在庫リスクの高い手法によらずとも、良質な本を欲しい人に届けられる。これは消費者側としても魅力的だ。当時は購入を諦めた本を「新品」として入手できるからだ。

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