ここで思い出してほしいのが、工場の柔軟性改革だ。こうしたモジュール化と工場の柔軟性改革は大きなシナジー効果を呼ぶ。販売データをにらみながらオンデマンド生産することが可能になるだけでなく、少量しか作らない限定的なモデルも採算に合わせやすくなる。販売計画は予測に過ぎない。現実に対応して適宜調整できれば、経営からバクチの要素が減って安定するわけだ。さらに多品種少量の商品展開で顧客のニーズに応えることが可能になり、その少量生産車の利益率も上がる。
トヨタはこのモジュール化シャシーシステムを「Toyota New Global Architecture(TNGA)」と名付けて、トヨタグローバルビジョンの中核に据えたのである。そして工場投資凍結を解除して、新規工場の立ち上げを再スタートした。
それはトヨタの反攻作戦の狼煙(のろし)だ。トヨタはこのリリースで「GMとフォルクスワーゲンを突き放す準備ができた」と宣言しているように筆者には見える。
しかしもちろん、対するGMとフォルクスワーゲンがこの間何もしていなかったわけではない。特にフォルクスワーゲンは旺盛な工場投資を繰り返してきた。モジュール化にしても最初に方針として打ち出したのはフォルクスワーゲンだ。しかし新技術への設備投資タイミングは、非常に判断が難しい。投資をした後で何らかのブレークスルー技術が登場すれば、先行逃げ切りどころかレガシーシステムを抱えて身動きが取れなくなる。かといって石橋をいつまでも叩いていれば、大きく先行されてしまう。
トヨタが成功するかしないかはまだ分からない。しかし少なくとも「そんなんじゃ勝ち目がない」とは誰も言えないだけの準備を、2008年の苦境を乗り越えた今のトヨタが整えたことは確かだと思えるのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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