自動運転の実用化で、社会はどう変わる?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2015年05月04日 10時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

自動運転が普及したら、何が起こるのか?

 「ドライバーに責任を求めない」ということは、突き詰めると「運転免許が要らない」ということになる。極端すぎると思うかもしれないが、そもそも自動運転を普及させるなら、有資格者が運転を監視しなくてはならないレベルでは困る。人間よりミスが起こる確率を下回らなければ実用化はできないはずだ。

トヨタのこの動画では、北米、東京・霞ヶ関などでの自動走行や、追い越し・車線変更の様子が見られる

 もうひとつ「トラブルが起きたときの対応」を考えてみよう。車両に何かトラブルがあった時に、人が運転すれば安全だろうか? そうは考えにくい。トラブルがあった場合、例えばボルボのシステムでは、安全な場所に停止するようになっている。そういう意味では不具合が出ても諦めずになんとか走らせようとする人間より安全な可能性がある。

 もちろんシステムに対処できない例外処理をドライバーが果たさなければならないケースも、最初のうちはあるだろう。例えば田舎の細い道で、草木が生い茂って車載センサー(カメラ)では道幅が足りないと判断されるケースなどは、ドライバーが状況を判断して運転しないと進めない。

 しかし、それはどちらかと言えばインフラの問題だ。自動運転ではネットワークを利用してクラウドの3Dマップを参照しながら走行するので、万が一立ち往生したら、ネットワークを経由してJAFなどに発報する仕組みは作れるし、替えのクルマを現地に急行させる仕組みなどを作るのも、そう難しいことではないはずだ。

 仮に自動運転には免許が要らないということになれば、自動運転車は公共交通機関のひとつとして有力な選択肢になる。それは国の形を変える大変革になる可能性を秘めている。「事故を減らす」目的に加えて、少子高齢化の進む日本では自動のパーソナルトランスポーターに大きな可能性がある。仮に、免許が要らず、さらに無人走行が可能になったと考えてみてほしい。それは誰もが運転手付き自動車を所有できる時代の到来なのだ。

自動運転を研究開発しているのは自動車メーカーだけではない。写真はGoogleが公開した自動運転カーのプロトタイプ。Uberの主要出資者であるGoogleは、自動運転の可能性の一つとして、配車サービスを示唆している

(1)地方の高齢者のライフライン

 現在、高齢者の事故増加が問題になっている。高齢者が免許を返納できる環境にあればいいのだが、地方で独居のケースなど、自家用車が買い物や病院への唯一のライフラインとなっているために返納できないケースも多い。自動運転車が免許不要なら、現在検討されているコンパクトシティ構想もより柔軟な計画に変えることができるだろう。これは都市機能のリストラクチャーコストを大幅に下げる可能性がある。

(2)都心の駐車場需要が変わり、土地の有効活用が可能に

 都心の一極集中も問題になっている。自動運転が普及すれば、駐車場は自宅の近くである必要はない。自宅でクルマを降りて、離れた駐車場まで自動運転で戻ってもらうことができる。当然車両保管のコストが下がる。これは商業施設などでも有用なソリューションになるだろう。駐車場が必ずしも店舗に隣接している必要がなくなるからだ。駐車場を遠隔地にすることで、商用地の利用効率が高まるはずだ。

(3)カーシェアリングの推進

 新たなクルマの使い方として注目を集めている、カーシェアリングとの相性は抜群だ。複数の拠点で共有したクルマを自動運転で融通し合うことで効率的な運用が可能になる。ユーザーにとっても自由なタイミングでクルマを利用できる可能性が高まり、同時にクルマは乗り捨て自由になる。またカーシェアリング会社と地方自治体が協力すれば、過疎地などの対策としても有用になるはず。過疎地のバスなどは自治体が費用の一部を負担しているケースも多く、これを自治体が一部補助するカーシェアリングに置き換えるなどの施策で、コストの圧縮が可能になるだろう。

(4)電気自動車の可能性

 現在の電気自動車にとって最大の問題は、ガス欠ならぬ「電欠」で走れなくなることだ。出かけた先で電欠すれば、充電が終わるまで待たなくてはならない。現状よりはインフラが充実することが前提だが、例えば近隣の商業施設や飲食店で乗員が降りて、クルマが勝手に充電に行くということになるかもしれない。そうなれば現在のデメリットのかなりの部分が解決するだろう。

 また自動運転であれば、ネットワークを経由して最寄りの充電スタンドを探し出し、電池残量と充電スタンドの混み具合を勘案してルート設定を行い、効率よく充電を行うことも可能になるだろう。

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