「チューハイ増税」に影響を与える“甲乙戦争”とはなにかスピン経済の歩き方(2/4 ページ)

» 2015年05月12日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「チューハイ増税」を好機ととらえる者たち

 だが、どんな現象にも表と裏がある。一方でこの「チューハイ増税」を好機ととらえる者たちもいる。例えば、「本格焼酎」などは良い例だ。

 芋焼酎、麦焼酎などに代表される本格焼酎は2000年代に始まった“焼酎ブーム”によって飛躍的に市場が成長したが、2006年の国内消費量がピークを迎えてから6年連続でマイナスを記録して伸び悩んでいた。もちろん、業界も指をくわえて見ているわけではない。これまで本格焼酎に触れたことのない人々への啓発、特に若年層へのアプローチを開始している。

 チューハイや発泡酒が思ったほどコストパフォーマンスが良くないということになれば、本格焼酎の新客となってくれる可能性も十分ある。ただ、そのような“追い風”もさることながら、増税検討に溜飲が下がったという人も多いかもしれない。本格焼酎にとって、チューハイは一言で語り尽くせない“因縁”があるからだ。

 ご存じのように、本格焼酎の発祥は南九州であり、今も有力メーカーが点在している。この南九州誕生の酒が本格的に全国区になったのは1970年代といわれているが、当時はまだまだ「地酒」ともいうべきマイナーな存在だった。

 それを示すように1970年の焼酎出荷量は約21万キロリットルだが、本格焼酎は4分の1程度に過ぎなかった。では、残りの4分の3は何かといえば、甲類焼酎(現在は連続式蒸留焼酎)だ。

 廃糖蜜(砂糖を精製する時に発生する、糖分以外の成分も含んだ液体)や麦など安価な原料を使って連続式蒸溜器を用いたもので無味に近い特徴を生かして割材やカクテル、チューハイに利用されている。分かりやすく言えば、「鏡月」とか「大五郎」とかである。

 ちなみに、本格焼酎は「乙類焼酎」(現在は単式蒸留焼酎)と呼ばれ、米、麦などローカル色の強い原料を単式蒸溜器で用いたもので、熟成もするので独特の風味がある。乙類焼酎は400年以上も前からある製法なので旧式焼酎、それに対して甲類は明治期に連続式蒸留器が英国から輸入されたことで開発されたので新式焼酎という呼び方もあった。

 そう聞くと、勘の良い方はお気づきだろう。長い伝統を誇る本格焼酎をさしおいて、「新参者」ともいうべき甲類焼酎が人気を博したのは、ほかでもないチューハイのおかげなのだ。

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