“あたらない”カキは作れるのか? オイスターバー最大手の挑戦上場で研究開発を加速(3/3 ページ)

» 2015年05月27日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]
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伸びる卸売事業

 実はこうした安全性向上の取り組みが新しいビジネスの柱に育ちつつある。それが卸売事業だ。元々は自社の店舗向けに始めたわけだったが、思いのほか社外からの引き合いが強かったため、2008年から一般飲食店に向けて本格的な卸売事業をスタートした。

 「営業活動はほとんどせず、主に口コミ」(吉田社長)で取引実績を伸ばしてきたそうだが、2015年3月期の卸売売上高は3億3000万円と、同社売り上げ全体の約1割を占める規模になっている。

 「カキはあたるというイメージがあるので、これまで飲食店は扱いたがらない食材だった。ただし、それが安全だというなら話は別で、当社のカキを使いたいという顧客が増えてきた」(吉田社長)

 特に浄化能力の高さが顧客から評価されているのだという。「浄化システム自体は他社と同じような仕組みだが、それ以外の部分にこそ長年積み重ねてきた独自のノウハウが詰まっている。たとえ他社がカキの卸売事業に参入しても、そう簡単にはいかないだろう」と吉田社長は自信を見せる。

 例えば、2014年7月に富山県入善町に設立した新たな浄化施設では、200メートル以深の海水である海洋深層水を使い、自然の力でカキを浄化する仕組みを作っている。こちらは特許出願中とのことだ。

あたらないカキを大量生産したい

沖縄久米島研究所(出典:同社サイト) 沖縄久米島研究所(出典:同社サイト)

 安全性の追求はまだ止まらない。これから同社が取り組もうとしているのが、カキの「陸上養殖」だ。2014年2月に研究開発施設「沖縄久米島研究所」を設立し、海洋深層水を活用した実験を進めている。陸上養殖のメリットは、管理された水槽の中で養殖するため、菌やウイルスのないカキを、季節に関係なく大量生産できることである。「低価格で大量にウイルスフリーのカキを生産する。これこそまさに当社が目指す姿だ」と吉田社長は力を込める。

 現状でも大腸菌や腸炎ビブリオなどほぼすべての菌を除去できるシステムを構築しており、「99%安全な生産体制」(吉田社長)を整備しているが、ノロウイルスなどは浄化できず100%には至ってない。そこで、ウイルスがそもそも混入しないような環境を作ろうというわけである。

 今は売上高全体の約8%を安全対策のための研究開発などに投資しているが、今後さらに研究開発コストが増えると予測する。そのためにも株式上場による資金調達は必要だったという。

 将来的には卸売事業の海外展開も考えている。特にアジア地域では生ガキなどが高級食材として消費者に人気を集めているそうだ。それを裏付けるかのように、東京駅の店舗などでは訪日外国人をターゲットにした商品メニューを開発し、好評を博している。「あたらないカキ」を日本から海外へ――。ヒューマンウェブの次の一手に注目したい。

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