ライザップを急成長させた「ちょびっとしんけん」とは何か?スピン経済の歩き方(1/4 ページ)

» 2015年06月16日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


 先週、ライザップが『週刊新潮』に叩かれた。

 トレーナーのほとんどがパートタイマーで、おまけに17時間ぶっ続けてこきつかうなどの「ブラック企業」だと指摘。さらにトレーナーの知識や経験不足のもとで行われるハードな糖質制限などで利用者の健康にも危険が及ぶかも、なんて調子で報じられているのだ。

 もちろんライザップ側は、「事実と異なる内容を多く含む」として猛抗議。法的措置も辞さぬ姿勢で臨んでいる。どちらの主張に分があるのかは、これから新潮社と運営元の「健康コーポレーション」でとことんやり合っていただくとして、双方の主張に耳を傾けて感じるのは、ライザップという企業がここまでの急成長を果たした背景には、やはり「ちょびっとしんけん」があるということだ。

 は? と首を傾げる人も多いだろう。「ちょびっと真剣」にやる程度じゃあ2カ月であんなにムキムキにならない。「ガッツリ真剣」だろ、なんて声も聞こえてきそうだが、そういう意味ではない。

 漢字で表記すると「儲美頭信健」。人間の欲望や劣等感を巧みに刺激して成長するビジネスの頭文字を並べたもので、今から20年以上前に経済評論家の小林正和氏が唱えた。

 「儲」は投資話・先物取引など、「美」は美容器具やエステ、「頭」は英会話や通信教育、「信」は新興宗教・霊感商法や自己啓発、「健」は健康食品や健康グッズなど。早い話が、いわゆる「コンプレックス産業」のことだと思ってもらっていい。

 そういう視点でライザップを見てみると、ここまでの成功の理由が分かる。例えば、ライザップの代名詞ともいえるテレビCMだ。

週刊新潮(2015年6月18日号、出典:新潮社)
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