川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
日本の高齢者の8割は、病院で死ぬ。これは欧州諸国などに比べて突出して高い。なぜだろうか。
日本の高齢者の病院死(自宅や施設ではなく、病院で死ぬ人の割合)は約80%と、欧州諸国の約50%に比べて高い。オランダでは30%そこそこである。昔からこうだったわけではない。1950年代の日本では約80%が自宅で死んでいるので、この60年ほどで逆転したことになる。病院死を望む人が増えたのかというと、そうではない。「人生の最期は自宅で迎えたい」と考える人の割合は各種調査で6〜7割となっており、昔と変わらず高い。在宅死を望む人が多いのに、病院で亡くなる人が8割に上るというのが実態だ。
病院死はコストがかかることもあって、国も病院から在宅へという流れを推し進めている。そして、在宅医療・介護体制の未整備、病院の過剰診療と軽い自己負担、終の棲家(すみか)に相応しいケア付き住宅が少なすぎるといった状況が病院死を増やしていると見て、地域包括ケアシステムの周知・浸透、過剰診療や長期入院を抑制するための医療制度改革、高齢者向け住宅の整備などを行っている。確かにこれらは必要だが、欧州並みの水準、あるいは在宅死を望む人のほとんどの人が自宅で死を迎えられるような状況にはならないと思う。どんな制度にしようと、結局、死に方は本人の意思、周囲の死に対する考え方によるところが大きいからである。
欧州では延命措置を行わず、寝たきり老人もほとんどいないことが知られているが、これは衰えや死を神の意思と考え、無用に抗わないという宗教的態度の結果である。だから、在宅死の割合が高いという面がある。日本人はこのような死生観を持たないから、死を忌み嫌い、向き合うのを恐れ、最後は判断を委ねられた医師や家族による「死なせない」ことだけを目的とした行為が行われやすい。どのような制度になったとしても、この点が変わらなければ病院死はなかなか減らないだろう。
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