ヘタすりゃワーキングプア!? いまどきの印税事情出版社のトイレで考えた本の話(1/5 ページ)

» 2015年07月23日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]

出版社のトイレで考えた本の話:

 出版界全体は、紙から電子へとフィールドを広げつつある。その一方で、従来の紙の書籍・雑誌の市場は縮小を余儀なくされている。アマゾンがほとんどの出版社にとって「単店での売上一番店」となる中、グーグルやアップルなど、従来は接点のなかった会社も次々とプレイヤーとして参入してくる。これから本はどうなるのか。

 このコラムでは、某出版社で主にビジネス書・実用書などを手がける現役編集者が、忙しい日常の中、少し立ち止まって、そうした「出版や本を取り巻くあれこれ」を語っていく。


 「夢の印税生活」。いい響きだ。文字づらからしてロマンがあふれている。あふれまくっている。印税。それは選ばれた知的労働者だけが受け取れる最高のご褒美である。

 では本の著者は、実際どのくらいの印税を手にすることができるのか。印税の計算式は「単価×印税率×初版部数」である。例えば、1400円の本を5000部刷って、印税率は10%だとすると、印税は1400円×10%×5000部=70万円(+消費税)だ。

 通常、本1冊の執筆には2カ月から半年ぐらいはかかるので、2カ月で書いたとしても、著者が受け取るのは1カ月あたり額面で35万円となる。半年かかれば1カ月11万6667円。東京23区在住の30歳独身であれば、生活保護費は13万円台くらいなので、それよりも低いことになる。リアルにワーキングプアである。年間5冊書いても350万円だ。

 もちろんこの数字は、初版で終わってしまい、重版(増刷)がされない場合のシミュレーションだが(そもそも4冊連続で初版止まりの著者が5冊目を出せる確率は最近だと限りなくゼロに近い)、最近だと初版が3500部とか4000部というように、部数がもっと下がる場合もある。とりあえず、初版止まりになってしまった本の印税は、単純な労働の対価としてはちょっと、いや、かなり厳しい金額である。

 会社の経営者やコンサルタント、学校の先生など「執筆以外の本業」を持っている人であれば、本を出すことが本業によい影響をもたらすことも多々ある。しかし、作家あるいは自分の名前で本を書いているライターにとっては受難の時代かもしれない。

 先ほどの計算で印税率は10%としたが、「初版が8%で重版以降10%」「初版6%、1万部を超えたら8%、2万部超えで10%」など、実際の条件はさまざまだ。出版社からすると、本はやはり初版発行のときに最もお金がかかる。つまりリスクが高いので、ここのリスクを下げる意味で、段階的な条件をつける場合が多い。

 ただ、ほとんどの著者にとって、おおむね10%が上限となるのは変わらない。出版経験が2〜3冊の著者でも、10冊以上を書いているベテラン著者でもだ。初めて本を出す著者の場合、ベテランと比較しても手のかかることが多いので、その分を勘案して印税は8%ぐらいで固定とすることも多い。通常は「本を出せば必ず売れる」というごく限られたベストセラー著者だけが、12%、13%といった“特別待遇”を受けることができる。

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