夜間取引がブーム? PTSに群がるネット証券の“台所事情”
日中は忙しいビジネスパーソンにとって、株の夜間取引って魅力的? 5社連合で新たな市場ができたとはいえ、果たしてブームは起きるのか――。
ネット証券を中心にPTS(Proprietary Trading System)の競争が激しくなりそうだ。PTSとは証券取引所を通じての取引ではなく、証券会社が開設したネットワーク上の私設取引所。顧客からの注文に対し、各証券会社が運営するPTSを通して取引が成立する。取引時間や取扱銘柄は各証券会社によって違い、注文はPCや携帯※を通じて行う。また、取引価格の決定方法や約定日(売買成立日)、決済日(売買後、株や現金の受渡日)も各証券会社によって違う。
PTS取引に参加できるのは、基本的に自社の顧客に限定されている。PTSは金融庁の認可など一定の条件をクリアすれば開始することができ、2001年1月にはマネックス証券、2006年9月にカブドットコム証券がそれぞれ始めた。
8月27日、ネット証券で最も口座数が多いSBIイー・トレード証券などが参加する最大規模のPTSが誕生した。SBIホールディングスとザ・ゴールドマン・サックス・グループ・インク(ゴールドマン・サックス)の両社が出資していたSBIジャパンネクスト証券(ジャパンネクスト証券)の夜間PTS市場がスタートしたのだ(6月28日の記事参照)。
初日からPTSに参加したのは、SBIイー・トレード証券とゴールドマン・サックス証券。9月7日からはGMOインターネット証券が取引を開始し、楽天証券とオリックス証券が2008年3月末までに参加する予定だ。SBIホールディングスの北尾吉孝CEOは「現在、数社から(ジャパンネクスト証券のPTSに)参加の声がある。取引量が増えれば、将来的には昼間も稼動することを検討している」との方針を示した。このPTSの最大の特徴は、“合従連衡”のため口座数が多いこと。そのため夜間取引が活性化する可能性があるのだ。
PTSは証券会社にとって1つの商品?
ジャパンネクスト証券のPTS取引に参加している証券会社は、定額手数料として月75万円を支払わなければならない。さらに定率手数料として、売買代金の0.003〜0.004%、決済手数料として売買が成立するごとに150円を支払う必要がある。
初日(8月27日)は128銘柄の取引が成立、売買代金は1億円強だった。2日目は298銘柄の4億3600万円と、初日と比べ約4倍の取引となった。1日に4億3600万円の売買があれば、ジャパンネクスト証券は260万円ほどの手数料を手にする。同社では「初日は様子見の投資家が多かったのではないか。今後も取引が増えることを期待している」と話す。
先行してPTSをスタートしているマネックス証券の売買代金は、1日あたり3億円ほど、カブドットコム証券は1億2500万円(7月実績)にとどまっている。関係者の話によると「PTSは莫大な利益をもたらすものではない。証券会社にとっては、1つの商品にすぎない」という。
PTSで重要なのは取引価格の決定方式
PTSは証券会社によって、サービス内容が違っている。取引時間はジャパンネクスト証券が19時〜23時50分(4時間50分)、カブドットコム証券は18時30分〜23時59分(5時間29分)、最も長いのがマネックス証券で17時30分〜23時59分(6時間29分)だ。取り扱っている銘柄はカブドットコム証券が2000、マネックス証券が3000、ジャパンネクスト証券が4000と1番多い。
ただPTSで重要となるのは、取引価格の決定方式だ。マネックス証券では、東京証券取引所などの最終値段で取引される。つまり各銘柄の株価は1つのみだ。ジャパンネクスト証券は顧客指値対面方式で、顧客からの指値注文(希望した株価で注文すること)が取引相手の提示した金額と一致すれば売買が成立する。
そしてカブドットコム証券のオークション方式が現時点では、最も優れていると言えるだろう(7月4日の記事参照)。このオークション方式は東京証券取引所などと同じで、顧客からの注文価格や量によって株価が決定する。そして投資家にとっては、成行(株価を指定せずに売買すること)や寄付(取引が始まり、最初の売買のこと)、逆指値(指定した株価まで下落したら売り、または上昇したら買い)などができるため、“使い勝手”はいいはずだ。
優れたシステムのため、他社が参加できない
PTSの機能面について、ある証券会社の幹部はこう語った。「Jリーグに例えるとカブドットコム証券はJ1、ジャパンネクスト証券はJ2、マネックス証券は大学生レベル」と皮肉る。だが別の関係者は、「カブドットコム証券は優れたシステムがネックとなっていて、簡単に他社が参加できない事情がある」という。
PTSにまだ参加していない松井証券は、今秋以降に自社で開設する。東証の株価と連動したシステムで、国内初の日中取引を予定している(7月26日の記事参照)。同じ銘柄を何度も売買できるのが特徴で、デイトレーダー向けのPTSと言っていいだろう。
すべての主要ネット証券がPTSに参加することで、競争は激しくなるのか。あるネット証券幹部は「例えばジャパンネクスト証券に参加している証券会社が、他のPTSにも参加するかもしれない。その逆の可能性もあるだろう」と話す。ネット証券はライブドア・ショック以降、株式の売買手数料が減少傾向にある。苦しい“台所事情”のネット証券は、新たな収益源を求めて、他のPTSへの参加もあるかもしれない。
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