寄せて上げて“緩める”マーケティングとは?:郷好文の“うふふ”マーケティング
去る2月12日は、“締めたり緩めたり”の記念日でした。締めると「さあ仕事!」、緩めると「あぁ今日も終わった」……その記念日とはいったい?
2月12日は「ペニシリンの日」「ボブスレーの日」。そして、「ブラジャーの日」でもあるのだそうだ。
1913年2月12日は、アメリカ人のメアリー・ジェイコブさんがブラジャーの特許を取った日。この日から女性の社会進出が始まったといわれる。いや、年中締めたり緩めたりの“おっぱい受難の時代”が始まったともいえる。男性がほおを“緩めたり締めたり”して“ブラジャー”と発音するのも、この日が起源ということなのだろうか。
“ヨコムネ”を自然に締めるのが理想の形
2008年2月12日にワコールが実施した「女性の『胸』に関する意識調査」(PDF)によれば、女性の胸の理想像は谷間やボリュームよりも「ヨコムネ美人」だという。美しい胸の要素とは「横から見たときの形重視(66.2%)」、「自然に見えるか(60.2%)」の2点が圧倒的な支持を集め、「胸の谷間(47.8%)」や「大きさ(24.2%)」を大きく引き離した。大きさよりシルエット、ナチュラル重視という結果になっている。
理想のヨコムネ女性は、藤原紀香さんや、米倉涼子さん、そして「ルパン三世」のキャラクター峰不二子さんといったプロポーション美人。もちろんこの調査の回答者は女性のみ(20歳〜39歳の600人)だ。
そこでワコールでは「ヨコムネで選びませう。」をキャッチフレーズにしたブランド「LALAN」で、「寄せて上げてに加えて“前にでる”」という“押し出し”をした。
ブラジャーとは女性にとってどんな存在なのか?という質問では、「自分を美しく見せるお助けアイテム」という意識が圧倒的(61.7%)。「普段したくない窮屈アイテム(20.5%)」「切り替えアイテム(13.2%)」を大きく離した。そうか、やはりブラジャーは、社会(ソト)に出たときの美のお助けアイテムなのだ。
だがソトがあればウチもある。何事も、締めたあとには緩めるときがやってくる。
おうちでは胸もリラックスさせたい
アツギには「おうちdeブラ」という商品がある。おうちでリラックスするときのインナーウエア、「ソフトな着用感でキープしつつリラックスできる」というコンセプトである。外(社会)に出るときは寄せて締めても、おうちでは心も胸もリラックス。
ブラジャーだけではなく、実は世の中の多くの商品には“締めたり緩めたり”のコンセプトが見え隠れする。次に挙げるのは「締めたり緩めたり商品リスト」である。
商品は締めたり緩めたりで揺れている
右の表を見てほしい。体、服、ケア……とランダムに例挙げたが、理屈や狙いは違っても、それぞれの分野で“締めたり緩めたり”の需要がある。
例えばストッキング。弾性ストッキングとは、足首、ふくらはぎ、ふとももへの締め比率を変えて、足のむくみを取ることを目的としている。医療用にも用いられ、長時間の立ち手術や、姿勢を変えられない入院患者の血行促進や静脈の逆流を防止するためにも使われる“締めるストッキング”だ。一方、デート用のストッキングにちりばめられた蝶や花の模様は、男心を“緩める”。ジーンズやスーツは「かっこよく見せたい」VS.「過ごしやすさ」のせめぎあいだし、フェイスケアやヨガは、からだを締めて心を緩めるためのもの。雑誌は休日の心を緩めてくれるが、平日の朝から漫画雑誌で緩みっぱなしの人もいるかもしれない。旅行にも、中期計画を締める業務研修もあれば、熱い駆け落ち系の緩みの旅もある(それは抱き“締める”旅になる? 笑)。
このように多くの商品は“締めたり緩めたり”の間で、需要を動かし、発掘している。
“緩市場”と“締市場”
商品を見るとき、その売上シェアや機能、価格帯、デザインだけで違いを見るのだけではなく、「緩いシェア」「締まったシェア」がそれぞれどれだけか? という視点で見てみると、今の消費トレンド事情や、これからどう動くかが見えてくる。
例えば同じ入浴剤分野でも、A商品=緩、B商品=締、C商品=締、D商品=緩……というチェックをしておき、それが半年前からどのように変化してきたか、「緩い市場規模」と「締まった市場規模」の変化を見る。これまでの“締めトレンド”とは違う商品がブレイクしていれば、「おやっ、なぜなんだ?」と疑問に思い、「締まりすぎたから次は緩めようという逆張りだな」と分かるわけだ。
マーケティングとは締&緩の“揺れの変化”を洞察して、片方に賭けることでもある。どちらかに揺れすぎたなと感じたら「180度反対の方向に振ろう」。1つの商品の開発も、起業や第2の創業も、基本は同じである。
日本市場はかなり揺れる市場であり、日本人には揺れる消費特性がある。緩・締の現象はそこかしこに“一貫して”見られる。はやり廃りに弱く、外圧や事件でも揺れる。価値観は時代に流される。ここ10〜20年という単位で見ても、モノ至上主義や金至上主義など、日本人は揺れてきた。
揺れに乗ずるのがビジネスの王道ではある。しかし、「ブレずにまっすぐ」というのもまた、1つのビジネス価値観である。
綺麗の素はヨコムネだけではない
リストの最後に挙げた教育は、商品とはいえないが、揺れてきたことの代表例。「ゆとり教育で緩みすぎたな」「まずいぞ」「教育再生で締めてゆこう」……政治や世論の“締めたり緩めたり”で子どもたちは揺れてきた。勉強ができてもできなくても、何か言われてきた。単に揺れる方針のせいなのに……。
教育方針はまっすぐが望ましい。女性の美しさも「締めてヨコムネ」だけではなく、まっすぐから始まる。ワコール人間科学研究所の開発工房部長の湯浅勝さんはインタビューでこう語る。
「私が綺麗だなと思う女性に共通しているのは、バストの大きい小さいに関係なく、姿勢がよくて、背筋がスッと伸びて、胸を張って歩いている。みんな生き生きしているように見えることなんです」
筆者もまったく同感です。私も背筋ピンとまっすぐで、しっかり前を向いて、凛と歩く女性を見かけると「なんて美しいんだろう!」とほれぼれと見とれることがある。今日はいい日だな、なんて思ったり思う。姿勢がよければ、ヨコムネも自然に綺麗になる。
でも外では胸を張ってヨコムネ美人でも、うちに帰ってきたら温かく、柔らかいほうがいいな、とも思ってみたり。そう、男心は締まりなく揺れるものなのだ。
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