涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編):嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(6/6 ページ)
田中康夫前知事と若女将の涙の会見は、まるでドラマでも見ているような衝撃だった。そのため白骨温泉=悪という公式が、いまだ多くの人の心の中でくすぶり続けているようだ。結果、白骨温泉の現状はどうなっているのだろうか?
最高のもてなしの宿、今後に向けて
今回、事件後初めて、4年ぶりに訪れた白船グランドホテルは、さまざまな問題を抱えながらも、その「もてなしの心」は以前にも増して素晴らしいものになっていた。
それは宿泊者アンケートを見ても一目瞭然だ。湯もそうだが、何より料理のおいしさと仲居さんたちスタッフの至れり尽くせりの接客には、本当に感動させられる。夕食では、同館名物の岩魚の骨酒(こつざけ)、信州牛のステーキ、馬刺し、朝食では、温泉粥が印象に残る。また、明るく愉快で働き者の仲居さんたちとの会話は旅の疲れを癒してくれる。
館内各所に生けられた花々もまた心を和ませてくれるものだ。エレベーターの中には柔らかい小椅子が角に置かれている。お年寄りをいたわるものであろう。いろいろなタイプの宿泊客に対する目配り・気配り・心配りが同館のもてなしの基本のようだ。
しかし既に詳述したように、こうした素晴らしさの数々は必ずしも知られていない。事件後は、いまだに「ああ、あの入浴剤で有名な」である。こうした状況を変革してゆくためには、終っていない事件を完了させることが何よりも肝要だろう。
もちろん、それがいかに大変なことかは、筆者にも分からないではない。東京のビジネスシーンで常識だからと言って、それが直ちに日本の隅々でも常識になるとは限らないのが現実だからだ。
白骨温泉は地理的にも人里離れた世界であり、だからこそ秘湯なのである。何代にも渡って、時間的・空間的に閉ざされた世界で湯を守ってきた方々には、その人ならではの価値観もあるだろう。そこにいきなり東京の常識を持ち込むのは、決してたやすいことではあるまい。
しかし、秘湯ブームの中心的役割を担ってきた企業群としての社会的責任は、世の中の要請として果たさなければなるまい。そして繁栄を取り戻すためには、社会との積極的なコミュニケーションを図ることが是非とも必要だろう。これは白骨温泉にも、白船グランドホテルにも言い得ることだと筆者は考える。
→“入浴剤投入”発覚から4年――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(前編)
→田中康夫県知事が踏み込んだ、その時――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(中編)
→涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編・本記事)
→“本物”の温泉とは?――ポスト秘湯ブームの今、満足できる温泉に出会う法(番外編)
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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