第8話 リーダーには“○○深さ”が大切:Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(3/3 ページ)
社内報の取材を受けていた誠は、なぜ自分が新商品開発チームのリーダーに抜てきされたのか、その理由を知ることになる。師匠・星野が挙げた、リーダーに必要な資質とは……?
翌週、再び社内報の取材のために社員食堂の片隅で美咲と向かい合わせで座った誠はやはりちょっと緊張気味だった。
美咲 今回はゆっくりお話が聞けそうです。昨日は星野さんにもお話を伺いましたよ。とても分かりやすくお話をなさる方ですね。
誠 やっぱりそう思いますか? 僕もああいうふうに、自分の考えをちゃんと整理して話せるようになりたいんです。
美咲 それに中村さんのことを、すごく褒めていらっしゃいました。「プロジェクトの様子を見ていても、彼なら最後までやり遂げるだろう。もしかするとコンサルタント職に向いているかもしれない」って。
星野からそんなことを言われるとは思ってもみなかった誠は、内心ドキッとした。
誠 ほかには何か言ってませんでしたか?
美咲 前回、どうして中村さんがリーダーに指名されたのか、理由が分からなかったので。星野さんに、中村さんが選ばれた理由を伺ってみました。そうしたら、星野さんが小石川社長に、リーダーの選び方をアドバイスされたそうなんです。
誠 じゃあ、社長が決めた選び方だったんですね。
美咲 でもそれが、ちょっと変わってるんですよ。星野さんがおっしゃるには、「リーダーの資質には“○○深さ”が大切」なんだそうです。
誠 ○○深さ? いったいどういうこと?
美咲 私が伺ったのは、「例えば“注意深さ”は気付きを導く、“執念深さ”がないと長続きしない、“思慮深さ”でよく考える、“慎み深さ”に他人が協力してくれる」というものでした。その他にもまだあるみたいですけど。
そこまで言うと、美咲はいたずらっぽく笑ってこう続けた。
美咲 とはいえ、やりすぎは禁物だそうです。ひょっとして中村さんって、執念深いんですか?
誠 全然、そんなこと。そんな、僕はストーカーみたいな真似はしませんよ……絶対に。まったく師匠も余計なことを言ってくれるよな。
美咲 でも、すぐにあきらめちゃったりもしませんよね?
美咲の澄んだ瞳に真っすぐ見つめられた誠は、なぜかそのまま目をそらせずにボーッと見つめ返していた。と、そのとき……
東山 あれ、中村君。お邪魔してしまったかな?
誠 あっ、東山部長。お、おはようございます!
東山 おはようって、もう昼過ぎだぞ。ああ、もしかして、社内報の取材中だったのかな。君は確か、広報の後藤さんだったね。彼の話はボケてないかい?
美咲 一応大丈夫みたいです。今もリーダーとしての経験談を伺っていました。ところで東山部長は、なぜ中村さんをリーダーに推薦されたのですか?
東山 そうだな、昔から知っていたこともあるが、なんといっても自らの弱みを克服しようとする強い意志があるからだな。もっとも、おっちょこちょいな面は相変わらずだけどね。
誠 部長、それって褒めてませんよ。
東山 きっちりと成果を出してくれたら、もちろん真っ先に社内報のトップに載せてもらうさ。いや、取材の邪魔をして悪かった。これで失礼するよ。
東山の後姿を見送りながら、誠と美咲は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
美咲 東山さんって、理想の上司ですよね。
誠 それはどうかな? ああ見えても締めるときはきつく締めるからね。
そういいながら、誠はこのプロジェクトが自分の人生に転機をもたらしていることを実感しつつあった。(第9話に続く)
星野仙八のアドバイス:「会社に必要とされるリーダーのタイプとは?」
会社の中で優秀といわれるリーダーのタイプは、会社の置かれている環境やライフステージによって異なります。
“強いリーダー”というと、皆さんが思い浮かべるイメージは独断専行型の絶対君主的存在かもしれません。しかし、社会環境変化の速い現代には、調整型や協調型といわれるリーダーも数多く活躍しています。彼らは仲間の意見を尊重し、組織の持つ潜在力を最大限発揮させようと柔軟に対処していきます。長期にわたり繁栄している企業では、その状況に応じた適役のリーダーがアサインされて、組織をうまくマネジメントしながら底堅い成長を支えているのです。
眞木 和俊(まき かずとし)
ジェネックスパートナーズ取締役会長。ゼネラル・エレクトリック(GE)で、シックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルト(専従リーダー)として参加後、経営コンサルタントに転身。
2002年11月、お客様とともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から、お客様の成果実現のために企業変革を支援し、事業価値向上に貢献するプロフェッショナルファーム「ジェネックスパートナーズ」を設立。日本企業再生を目指して、企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』などがあり、中国、韓国、台湾等でも翻訳出版されている。
筆者よりひと言
「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。
しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。
本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神でプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。
登場人物紹介
- 中村誠(主人公、PJリーダー):入社10年目の商品企画室主任。リーダーにアサインされるもどううまく進めていけばいいのか、戸惑いも悩みも尽きない32歳独身。
- 東山貞治(PJオーナー):製造部長。温和で若手社員の面倒見がいい上司。誠が水戸工場勤務時代には工場長だったので大変お世話になった。
- 小栗順(PJメンバー):購買部員。誠と同期入社だが、昔からそりがあわない。
- 仲居貴一(PJメンバー):製造部員。誠の1つ上の先輩で職人肌タイプ。水戸工場時代、彼からモノづくりのイロハをきっちりと指導をされた。
- 山口勉(PJメンバー):商品販売部員。誠の4つ下の後輩で、数字に強い。
- 浜崎しほ(PJメンバー):広報部市場調査室員。誠の3つ下の後輩で既婚。頭が切れるタイプだが、リーダー初心者の誠を応援してくれている。
- 坂口賢二(PJメンバー):飲料開発部員。誠の同期で新入社員時代、同じ部で苦労した経験を共有している。
- 小石川登:アイティフーズの3代目社長。アイティ食品グループ本社の役員も兼務する。
- 星野仙八(経営コンサルタント):経営コンサルティング会社JNEX(ジェイネックス)のパートナー。アイティ食品グループで進めるI2プロジェクトを主導しているベテランコンサルタント。
- 後藤美咲:広報部社内広報室員。誠の5つ下の後輩で、癒し系。社内報取材を通じて、誠といい感じに……?
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