「クラシック音楽に深く接してこなかった方にこそ聴いてほしい」――“魂のピアニスト”浦山純子氏:あなたの隣のプロフェッショナル(6/6 ページ)
聴く者の魂を揺さぶる演奏と心温かなトークで、人々に安らぎと希望を与えるピアニストがいる。ピアニストの名は浦山純子さん。彼女はクラシック音楽の新たな可能性に挑戦しているのだ。
クラシック音楽の新しい顧客層を開拓する
日本のクラシック音楽愛好家には、CDを通じて過去の巨匠たちの演奏の聴き比べを楽しむ「CDコレクター」と、とにかくライブが好きという「コンサート・ゴアーズ」の2種類が主として存在する。年間に100万円以上使うようなヘビーなマニアの数は、前者・後者ともに2万5000人ほどいるという。さらに、年末に「第9」に行くだけとか、正月の「ウィーン・フィル・ニューイヤーコンサート」をテレビで見るだけといった薄い層まで入れると、クラシックファンは全国で100万人ほどと言われる。
浦山さんは今後、日本での演奏活動でどういう顧客層をターゲットにするのだろうか?
「マニアの方々をターゲットとするのはもちろんです。しかし、特に私が重視したいのは、これまでの人生で、必ずしもクラシック音楽に深く接してこなかったような方々です」
魂を揺さぶるような演奏と心温まるトークをきっかけに、自分の人生に目覚め、クラシック音楽の世界に目覚める人々がたくさん出てくることを彼女は願っているのだ。彼女の魂は、いつでも聴衆とともにある。主体としての自分と、客体としての聴衆が不可分一体の存在になっているという点で、彼女の生きる姿勢は仏教哲学にいう主客一如そのものであると言えよう。
それにしても、大手音楽マネジメント事務所に所属しない彼女が、日本のクラシック音楽界で新市場開拓を実現するのはなかなか大変なのではないだろうか?
「志を同じくしてくださる各分野の専門家の方々とチームを作って、そのチームを核にして活動していけたらいいと考えています」
過去数十年、世界のそして日本のクラシック音楽市場は衰退・縮小を続けている。彼女の活動が、それを食い止める1つの突破口になれば、こんな素晴らしいことはないだろう。もし、本記事をお読みになってご興味をもたれた方がいらっしゃれば、是非、彼女のコンサートに足を運んでいただきたい。
足を運ぶのはちょっと……と敬遠される方は、まず彼女の3枚のCDに耳を傾けてみてはいかがだろうか。
- 「リサイタル(ショパン&ラフマニノフ)」(2003年)
- 「ファンタジー(プーランク、ベートーベン&シューマン)」(2005年)
- 「ソワレ(バッハ、ベートーベン、ショパン、シューマン、リスト、リムスキー・コルサコフ、ドビュッシー、クライスラ−、平井康三郎、などの小品集)」(2007年)
これらは、浦山さんのWebサイトから購入可能で、いずれも素晴らしい演奏が収められている。浦山純子さんの今後の音楽活動に幸多からんことを願って筆を置くことにしよう。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
関連記事
- 嶋田淑之の「この人に逢いたい!」:南極越冬隊は何を食べているのか――南極越冬隊調理担当・篠原洋一さん(前編)
2008年12月25日、第50次日本南極地域観測隊が出発した。1年3カ月間という滞在期間中、南極越冬隊の胃袋を支えるのが、調理担当の篠原洋一さんだ。ここでは2回にわたり、彼らがどんな活動をし、どんなものを食べているのかを篠原さんに聞いていく。……ひょっとして、ペンギンを食べたりするのだろうか? - あなたの隣のプロフェッショナル:銀座で“癒やしのカクテル”を作る、東大卒バーテンダー――阿部佳則氏(前編)
バー激戦区の東京・銀座で、話題の新店がある。「疲労回復」「メタボ予防」といった健康カクテルを作ってくれる、元製薬会社勤務の若きバーテンダーとは何者なのか? 興味を引かれて、そのバーに行ってきた。 - あなたの隣のプロフェッショナル:食べるプロ「ラーメン評論家」に必要な5つの資質――大崎裕史氏(前編)
ラーメンが好き、という人は多い。食べ歩きブログを書いているという読者もいるかもしれない。しかし、ラーメンマニアとプロの“ラーメン評論家”との間には、越えがたい壁がある。これまで食べたラーメンの数1万6000杯以上、「日本一ラーメンを食べた男」に話を聞く。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.