「家族のブランド」を生かせ! 花王「メリット」の新製品戦略:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
花王のヘアケアブランド「メリット」が、女児向けのトリートメントを新発売し、好評を博している。ブランドのポジショニングを巧みに生かした新製品戦略を読み解いてみた。
「家族のブランド」を生かす
シャンプーから始まったメリットの歴史は古く、1970年の登場だ。筆者が今でも覚えているCMキャラクターは女優田中裕子。「結婚式編」では、花嫁である友人に「フケ・かゆみをおさえてお幸せに」とスピーチする。
ターゲットは若い女性であり、「フケ・かゆみをおさえられる」という極めてストレートなポジショニングを示している。しかし、40年近くが経った今日、フケ・かゆみに悩む若い女性はほとんどいない。メリットのターゲットとポジショニングも大きく変化した。
Wikipediaの「メリット (シャンプー)」の記述が分かりやすい。
保阪尚輝・高岡早紀夫婦(当時)起用以降は、「新・家族シャンプー 弱酸性のメリット」とCMで宣伝される。近年は、高級化・個別化が進むヘアケア市場の中で普及品である本製品は、従来からのフケ・かゆみを防ぐ機能に加え、家族や親子での使用シーンを広告などで前面に出して、ブランドの再構築を図っている。
CMキャラクターも、仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻と、これでもかという家族シリーズでポジショニングを明確にしている。
ポジショニングを変更することは、失敗すれば従来の支持層を失う危険性を伴う大きな賭けである。しかし、その賭けに成功し、「家族のブランド」になったメリットだからこそ、今回の「母と娘のトリートメント」が大きな意味を持つのだ。
今まで使ったことのない女児へのトリートメント。「本当に必要なのかしら。効果があるのかしら」と考える母親。しかし、そこは「家族のメリットなら安心ね」と、購入のハードルを引き下げる。ほかのブランドにはない安心感だ。
さらに、今回の「メリットさらさらヘアミルク」の成功はさらなる可能性を示唆(しさ)している。「家族」という大きなくくりではなく、「母と娘」などのように家族構成をさらに細分化し、そのつながりに対応した商品シリーズ展開も可能となるだろう。例えば、「父親と息子のためのスッキリするシャンプー」などはどうだろう。
メリットは、過去に挑戦して得たポジショニングを生かして、顧客と市場の変化、ニーズを敏感にとらえた商品を開発、今後の展開の礎まで築いた。
あっぱれ!
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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