辞めたくなくなる職場の作り方
「働く人が自由に転職できる社会環境」は歓迎ですが、「安易に転職してしまう風潮」は大いに問題。労使双方にとってデメリットであり、何とかして防がなくてはなりません。その時に大切なのは「辞めたくなくなる職場」にすることです。
著者プロフィール:新田龍(にった・りょう)
株式会社ヴィベアータ代表取締役。早稲田大学卒業後、東証一部上場企業で経営企画、事業企画を経験。その後人材サービス大手企業にてコンサルタントおよび人事採用担当等を歴任。 現在は人事戦略コンサルティング会社を経営。
「3年で3割辞める」という表現が定着していますが、これは何も今に始まった現象ではありません。文部科学省の統計によると、バブル真っ最中の1987年3月卒業者においても、彼らの3年以内の離職率は28.4%でほぼ3割なのです。3割辞めてしまう原因については、一般的に言われているような「人材流動化の進展」とか、「将来への不安感」などといったものではなく、もっと根源的な理由がありそうな気がします。
個人的には「働く人が自由に転職できる社会環境」は大歓迎なのですが、一方で「安易に転職してしまう風潮」には大いに問題を感じています。 労使双方にとってデメリットであり、何とかして防がなくてはなりません。
そもそも、なぜ仕事を継続することが大事なのか
私としては、「大変な状況を乗り越えて「やり切る」ことで力量や自信が得られ、それがまた行動へのエネルギーとなって、新たなビジネスの境地が開けていくから」だと考えています。
例えば、与えられた仕事に不満を感じる若手社員に対し、先輩が「まだ何も分かってないくせに」といった思いを抱くことが往々にしてありますよね。 これは、「若手がやっているのは大きな仕事の中の1つの断片でしかない。1から10まで自分の責任ですべてやり通したときに、初めて仕事をしたという実感が得られるものだ」ということを知っているからではないでしょうか。
小さくとも、自分の裁量と権限において1つの仕事を貫徹する。それによって得られる充実感や、自分の存在意義といった「醍醐味」を感じないまま、すなわち「やり抜いた」と言えないままで仕事を辞めてしまうのは実にもったいないと感じます。
短期離職者を出さないために、組織としてどんな取り組みをするべきか
ポイントは3つ、「共有」「共感」「実感」です。どういうことか、具体的に見ていきましょう。
「共有」とは、組織と社員間で「目的意識が共有されていること」です。
- この会社の使命は何であり、
- 使命に対してこの部署はどんな貢献をすべきであり、
- そのために個々の社員はどう仕事と向き合ってほしいのか。
経営者や管理職の皆さまはこれらの点について、常に、本気で、分かりやすく、社員に語っているでしょうか。
「共感」とは、共有がベースになって生まれる「組織と社員間の精神的つながり」です。
- ビジネスの意義が共有されていて、
- 個々の社員が「こうなりたい」「こうありたい」という将来像も共有できていて、
- 組織と社員、双方で「想い」を尊重し、互いに高め合っているか。
上記について躊躇(ちゅうちょ)なく「YES」と言い切れるか。ぜひ皆さんで考えてみてください。
そして「実感」とは、組織において「自分への期待や自己成長が実感できること」です。
今の組織では、社員全員が
- 「今、どんな期待をされているか」を知っている
- 「この仕事をやることで、どう成長できるか」を知っている
- 「この組織にとっての、自分の存在意義」を知っている
と言えるでしょうか。
人を辞めさせないためのテクニックはいろいろあるかも知れませんが、真に有効なのは「辞めたくなくなる職場」であることです。その源泉が、「共有」「共感」「実感」にあると言えるでしょう。
この3つがそろっていない会社から人が出ていくことを「流出」といい、そろっている会社からの場合は「輩出」と言うのでしょうね。(新田龍)
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